パン生地の捏ね方いろいろ
こんなご意見を頂いていました。
ズリズリやってはいけない・・・えっ!!・・・て思いました、びっくりですが私もそう感じていただけに・・・ 完成した生地が風船の塊だと思うと、自然と割らないように割らないようにと意識していました・・・ しかし現実にはより細かい気泡を作るにはすり合わせることが最も効果的だと思います・・・ 揉むといっても握力が弱く体重の少ない私では非常に無理があり、それと同じ効果を得られるのが遠心力を使って叩きつけるということなのではありませんか・・・ 初期段階ではダマを作らないためにしっかりとすり合わせを行う必要がありますが、徐々に揉み込みへと移行していくのが理想的ではないでしょうか・・・ グルテン膜は発酵中にも作られて行くと思いますので、壊れることを恐れるよりも早く捏ね上げを完成させる事が出来る方法が重要なのではないでしょうか・・・ 揉むということは内部的には摩擦が起きているはずですから、そこはどう捏ねても同じ理屈になるのでは・・・ 手で捏ねている時点ですでに機械よりは優しいと思うのですが・・・
今回のような内容に関して以前から頂いていたご意見です。
パン作りにおいては、生地を捏ねるという行為はパンを完成させるに当たっての一つのプロセスとなろうかと思います。
という事は、様々なプロセスが存在して当然で、尚且つ捏ね方そのものも色々あって良いと思うのです。
要は、自分が思い描いた完成品にするためのプロセスの一つである ”捏ねる” という行為が、理論的にも現実的にも合っているのか、それとも間違っているのかが解りさえすれば良いのだと思うのです。
そう考えると、どう捏ねることが大切なのかということよりも、完成したパンからどのようなメッセージが出ているのかを掴むことがもっとも重要であると言えるのではないでしょうか。
様々なプロセスを経て完成した自分のパン・・・
そのパンの香りを嗅いで、食感を楽しんで、味わって初めて伝わってくるパンからのメッセージがあります。
もう少しもっちりとさせたかったな・・・そう感じたら次は捏ね方を少なめにするべきか多めにするべきか・・・
もっと弾力のある歯ごたえのあるパンにしたかったな・・・そう感じたら次はどうするべきなのか・・・
少しネチョネチョするような気がする・・・これは混ざりが完全ではなかったかな??・・・
膨らみが弱い気がする・・・国産小麦だからか、捏ねが弱かったからなのか・・・
と言うように、完成品から逆上って作り方を考え直してみるということで、より自分なりの満足度を得ることに近づくことが出来る訳です。
料理と全く同じですね。
そこで今回は、どう捏ねることがどのような食感を生み、パンの膨らみとどう関係してくるのかということを考えてみましょう。
よくある質問の中に、外国産小麦と国内産小麦の捏ね方の違いに関する質問が多々あります。
それは、外国産小麦はグルテンをたくさん持っているので、しっかりと捏ねることでその効果を引き出すことが出来るのに対して、国内産小麦はグルテンが少ないので捏ねすぎるとかえってボリュームがでなくなってしまうのではないかということに関してが殆どとなります。
その点では勿論その通りなのですが、外国産小麦の中にも中力もあれば薄力もあり、国内産小麦の中にも最近ではとても強力な小麦粉もあったりしますので、外国産か国内産かという分け方ではなく、あくまで銘柄とか名称で決めていかなくてはいけないということだけはお分かり頂きたいと思います。
つまり、今現在ご自分で使われている小麦粉では、どう捏ねていくことがどのような結果を生むのか・・・ということを知ることが重要だと思います。
専門的な理屈はあまり関係ありません。
自分なりに色々な捏ね方を行ってみて、その時の食感や膨らみ加減などを見て判断すればよいのです。
ではここで、その判断材料となる事例を幾つかあげておきましょう。
食パンの内層が細かい気泡にならずにネチョネチョした感じになる場合。
このような場合は、ほぼ間違いなく捏ねが足りていないでしょう。
食パンのようにしっかりと高さのあるパンを作りたい場合は、どうしてもボリュームが出やすい力のある小麦粉を選択しないと難しくなってしまいます。
どのような小麦粉であれ食パンは作れるという人は別として、ごく一般的なホームベーキングではこのことを先ずは認識しておいてほしいと思います。
機械で捏ねる場合もしっかりと捏ねる、そして手で捏ねる場合も十分に捏ねることがポイントとなります。
この場合には、ズリズリが良いのかモミモミが良いのかということではなく、とにかく力を入れて全力で行うことが大切です。
力の強いグルテン膜を持つ小麦粉の力を最大限に活かすためには、とにかくしっかりと捏ねることに尽きます。
もちろん手で捏ねるよりもニーダーやパン焼き器で捏ねた方が成功率はぐんと上がるでしょう。
捏ねすぎな位捏ねるというイメージで取り組むことが食パンづくりにおいては正攻法と言えると思います。
小麦粉の力が弱くなって行けば行くほど、立体的なボリューム感を得ることは非常に難しくなります。
どうしてもこの国内産小麦粉が使いたい・・・と言って、焼成後に腰折れしてしまっている状況をよく目にします。
一番良いのは、立体的ではないパンを作れば良いと言いたいところなのですが、どうしても、力が弱くてもこの小麦粉の味が好きで、尚且つそれでどうしても食パンを作りたいという方がいらっしゃいます。
そんな場合には、バイタルグルテンという風船の元のような粉末が売られていますので、それを少しプラスするとボリューム感のみ助けてくれますから、使ってみてはいかがでしょうか。
また逆に、パン生地の場合にはどうしてもグルテン形成の最高到達点のような ”ここだ” というタイミングが存在します。
そのタイミングを少し位はずしたからといって、特別なダメージがあるというわけではないのですが、さすがにそこを大きく過ぎてしまうと、もう完全につきたてのお餅のようにベロ~ンとなってしまい、風船はことごとく割れた状態になってしまいます。
生地は極度にベタつき、いつまでもツヤツヤキラキラしていて非常に温かく、手粉をしてもどろ~っと指にまとわりついてくるでしょう。
こうなるともう完全にグルテンが破壊されてしまっている状態ですので、捏ねが足りていないとき以上にネチョネチョしたパンが完成してしまいます。
ご家庭での捏ねるという作業の強い味方になってくれるのがこちらの製法です。
焼き込み調理パンのように具材を乗せたり、包んだり、巻き込んだりして作る食事パンなのに、噛みちぎれなくて食べづらい場合。
このような場合は、逆に小麦粉の力はあまり強くないものを使うか、あるいはあまり捏ねないか、薄力粉とか中力粉をブレンドするかなどして、グルテンの繋がりが強くなりすぎないようにしましょう。
よく質問にあるのが、強力粉をあまり捏ねないときと、薄力粉をブレンドしてしっかりと捏ねたときとではどちらがボリュームが出やすくなりますかという点です。
薄力粉をブレンドした時点で総合的にグルテンの総量が減っている訳ですから、例えしっかりと捏ねたとしても薄力粉をブレンドした分力は弱くなり、ボリュームは出にくくなりますし、薄力粉が入ることでサクミがでて軽い食感になります。
他方いつもの強力小麦粉をあまり捏ねない場合でも、その他のプロセスである分割丸めや成形などを行う、あるいは発酵時間の経過によって、あるいは生地温度の高さによっても、グルテン膜はどんどんつながりを強めていきますので、どうしても最終的にはボリュームが出やすくなりますし、噛みごたえのあるパンになりがちです。
ボリュームの出やすい強い生地で焼き込み調理パンを作ると、上に乗せた具材と食感が合わずに、一度に口に入って困るとか、コーンなどはボロボロとこぼれてしまって困るということになりがちです。
具材を乗せる、包む、あるいは巻き込む等の場合には、はじめから力の弱い小麦粉を選ぶか、あるいは中力粉や薄力粉をブレンドして使う方が望ましいと言えますね。
個人的にはモチモチとした生地とかフランスパンのように引きのあるパンが好きですが、例えばそんな生地でフランクに巻きつけたとすると、食べるときにフランクそっちのけで生地だけがグルグルとつながって取れてしまうでしょう。
焼き込み調理パンも、なかなか噛み切れなくて引っ張っているうちに、具材が落ちてしまうなんてこと経験したことありませんか。
もちろんあくまで好みの問題なのですが、具材に何を使うかによって、またはどのような成形を行うのかによっても、小麦粉の選定は重要だと言えますよね。
フランスパンに挑戦したが、キメが細かくて表面がパリッとせず、スポンジのように弾力のあるパンになってしまう場合
家庭でパンを作る場合は、作る種類ごとに小麦粉を変えるなんてことは誠に面倒ですよね。
強力粉と薄力粉しか無いという家庭が普通かもしれません。
フランスパン専用の小麦粉も売られていますが、どちらを使うにしても結局はなかなかパリッとはいかないという方は多いのではないでしょうか。
フランスパン系の、いわゆるあまり砂糖や油脂などを入れないパン生地と言うのは、食パンを作るときに比べると生地のまとまりが非常に早くなります。
それは、粉以外の余分なものが入らない為、全体にまとまりが早まるからなのですが、そうなるとどうしても捏ねすぎてしまうという現象が起きてしまいがちです。
生地を捏ねていく段階において、混ざりにくいとかなかなかしっとりと馴染んでこないとか、それなりになめらかな生地になるまでには意外と時間がかかると感じませんか?
それは何故かと言うと、砂糖とかミルクとか卵とかバターなどという、グルテンを繋げていくのに邪魔な材料が沢山入るからで、その邪魔な材料が入らないフランスパンの場合には、同じように捏ねているようでも非常に早く生地が出来上がってしまうのです。
つまり、どのような小麦粉を使ってフランスパンを作るのだとしても、結局はいつもよりも捏ねすぎてしまっているということが多いのです。
そうなりますと、気泡は細かくなり、その分ボリュームも出てきてしまい、フランスパンの最大の魅力であるパリパリの皮ではなく、しっかりと繋がりのあるプリプリの皮になってしまうのです。
ご家庭でフランスパンを作る場合には、5分程度モミモミするだけで十分であると言えます。
機械を使う場合には、残念ながら捏ねすぎてしまうでしょう。
捏ねた後の発酵時間中も、他の副材料が多く入るパンに比べると、フランスパンの場合は格段に生地が繋がっていきますので、発酵時間そのものが捏ねるという役割をも果たしているのです。
極限まで捏ねないで完成する生地というのは、風船は少なく、その作りはモロく、表皮は厚くなります。
その生地を高温でスチーム焼成することで、表面は煎餅のように香ばしくパリパリとなり、内層は粗い分もちもちキラキラとして、独特の風味をかもしだすのです。
この場合には、中力粉などの力の弱い粉か、あるいはもともと力の弱い国内産の強力粉を使うことで、あえてボリューム感を出さないパンにするのがベストだと思います。
「フランスパンには薄力粉を入れた方がボリュームダウンを狙えるのではないか」というご意見もよく頂くのですが、少しばかり考え方が違うような気がします。
薄力粉を入れることによってサクミは出ますが、フランスパンに必要なのはそのサクミではなく、まさに煎餅のようにやや粗い噛みごたえなのではないでしょうか。
勿論好みの問題でもありますが、同じようなサクミでも、ビスケットのような食感、ポテトチップスのような食感、クラッカーのような食感、そして煎餅のような食感をそれぞれイメージしてみて下さい。
それぞれに違う食感を持っていますよね。
この中で例えばビスケットに一番多く薄力粉が使われていると思われますが、あのように非常にモロい感じが好みであれば薄力粉は効果大でしょう。
つまり、薄力粉などの弱い粉を使うことによって歯ざわりとか噛みごたえを変えることは出来ますが、パンとしてのあの独特の食べごたえを得るには、グルテンを豊富に含んでいる強力粉でないと、味・風味・食感共に別のものになってしまうでしょう。
強力粉で作るフォカッチャと薄力粉で作るホットケーキ、似ているようですが全く違う食感ですよね。
このように、同じ小麦粉でもそれぞれに特性を活かしながら、時にはブレンドなどを行い、捏ね方・混ぜ方などをコントロールして食感や風味を作り上げているわけですね。
どのようなパンを作りたいかによって小麦粉の選定も必要なわけですが、より深くいつも使っている小麦粉の捏ね方や混ぜ方を工夫してみること、そして完成品がどう変化していったのかを知ることによって、様々なブレンドを楽しむことができるようになるでしょうし、様々なアプローチがあるのだということを知ることになるのではないでしょうか。
特に家庭においては、こうでなければならない・・・なんてことは考える必要もなく、私なりの捏ね方で私なりの食感を出していただければ良いと思います。
捏ねる・・・ということだけがパン生地を作っているかのように思われがちですが、パンの場合特に難しいのが、その後のプロセスにおいても生地に多大な影響を与え続けていくのだということなのです。
捏ねた生地の温度が何度で、何度の場所で何時間発酵させ、どのように生地を扱いどのような成形を施し、どのような温度と時間で焼いたのかによって全く違うパンになる。
しかも原料の違いによって、配合の違いによってもそれぞれ変わってくる・・・ それが単純作業のようでも奥が深いと言われるパン作りなのだと言えるのですが、それらも家庭においては全く気にする必要はありません。
なぜなら、パン屋さんであってもそんなことを知らずに作っている人がたくさんいますから・・・
気楽な気持で大いに楽しみましょう。
それでもお困りになったら、いつでもご質問をお待ちしております。