捏ねに関するこんな質問をいただきました。
我が家では、捏ねるのはパン焼き機を使用して捏ねまして、その後に取り出してレーズンやチョコレートなどを混ぜ込んで色々な種類のパンを作っていますが、先日友人の家で餅つきを一緒にさせていただいた時に感じたのが、パン生地と餅は非常に良く似ているなということでした。
生温かい感じとベタベタとした感じとつやつやした感じが、とても良く似ていると思ったのですが、良く似ていて本当に良いものなのでしょうか?
何故このような疑問が湧いてきたのかと申しますと、先日ご近所のパン屋さんが主宰するパン教室に参加した際の事なのですが、その時の生地の感触が私がいつも作っているパン生地とは全く違っていたからなのです。
私の作る生地に比べて、とても乾燥した感じの生地であまりべとべとしておらず、成形しやすかったのです。
講師の先生に質問した所、水が多いとそのようになるので、少し減らしてみてはどうかと言われましたので、今現在は少し減らして捏ねているのですが、あまり状態は変わりません。
だとしたら、捏ね過ぎか捏ねが足りないかの方を疑った方が良いのか????非常に悩んでおります。
出来上がりのパンはまあまあの完成度だと自分では思っていたのですが、やはり買ってくるパンに比べると硬くなるのが早いと申しますか、あのフワフワとした感じにはなっていないような気もしています。
具体的なアドバイスは頂けない事は充分承知しておりますが、パン焼き機を使った場合の注意点などがあるようでしたら、教えていただけると有難いと思い、ご迷惑を承知でメールさせていただいた次第です・・・
確かにホームベーキングの方からの質問には、あまり具体的には返答しようがありませんでした。
なぜなら、製パン経験が無い方にメールでアドバイスした所で、到底理解していただく事は出来ないからです。
しかも、毎日作る訳ではありませんから、前回の状況とこれからの対策がうまくリンクしていかず、季節までもまたぐ結果になってしまったりして、これはやはり趣味と商売とでは考え方が全く違うので仕方が無いのだと感じたのでした。
しかし、今回の質問の内容は、家庭であっても、パン屋さんであっても、またはその中間レベルでパンを作っていらっしゃる方にとっても、とても重要な要素を秘めていると判断し、あまり具体的には書けませんが、傾向としてとらえていただく為の説明をしていこうと思います。
皆様ご存知のように、パン生地と一言で言っても実に色々な生地がありますよね。
しかしこれを大きく分けると、トータルとして甘い生地なのか、しょっぱい生地なのか、マーガリンなどの油脂量が多いのか少ないのか、国内産の弱い粉なのか、それともとても強い粉なのかというような分け方になります。
家庭で一般的に作られるパン生地には、必ずと言っていいほど油脂分と砂糖は配合されていると思います。
つまり、程良い甘さと油脂分を含んだパン生地であると言う事になりますね。
粉の種類はかなりまちまちだと思われますので、そこにはあまり触れないでおきたいと思います。
さて、皆様が作る程良い甘さと油脂分を含んだパン生地と言うのは、捏ね上がりが餅のように艶々としていて、ややベタベタしていて、生温かい感じでしょうか?
そして、そんな生地の状態は、果たして最良の生地状態であると言えると思いますか?
答えは、一般的には最良であると言われています。
と言うよりも、ほとんどがその様に捏ねていると思われます。
ですので、質問者様の作るパン生地は、まったく問題はないと言えると思うのです。
ならば、それで一件落着か・・・・と言うと、実はそこには大きな落とし穴があると言わざるを得ないのです。
もちろん間違いではありません。
100%しっかり捏ねた生地であると言う事の証が、艶々だったりベトベトだったりするからなのです。
しかし、問題はここからです・・・
100%捏ねられた生地と言うのは、もうそれ以上は捏ねて欲しくない状態にありますよね。
しかしながら、私達はその後にも生地を分割したり丸めたり成形したりして生地にダメージを与えています。
おまけに、憶えていただけていたら嬉しいのですが、発酵はゆるやかなミキシングですよね。
と言う事は、すでに100%捏ねられてしまった生地を、その後に分割したり成形したり発酵させたりすることで、実は130%位になってしまってはいないか????と言う事になるのです。
100%捏ねられた生地と言うのは、生地中の風船がほぼ満タン状態で待機されています。
そこにガスが充填されていって生地は膨らんでいきます。
しかし、せっかく100%満タンの風船があるのに、その後に生地にダメージを与える事で、たくさんの風船を割ってしまう事になっては、何の為にたくさん捏ねたのか意味がなくなってしまいますよね。
100%よりも130%の方が、よりきめ細かい風船が出来るのではないか??? そう思いたいところですが、実際には30%プラスの130%なのではなく、30%分の風船を割ってしまって、全部で70%しかなくなってしまっているのが実情なのです。
100%の風船を130%に増やせる技術は当然あります。
ですがそれは、かなりハイレベルな技術だと言えるでしょう。
家庭で使用するパン焼き機というのは、かなり生地に負担を欠けた捏ね方をしています。
こんな事を言ったら開発者に怒られそうですが、そもそもが機械で捏ねると言う事自体が生地に負担を欠けていると言う事をまずは知ってほしいのです。
その負担が生地にとってプラスに働くかマイナスに働くかは、その後の生地の取り扱いや技術に関係してくるものであり、それが家庭であるならば、とにかくしっかりと捏ねて生地を完成させる以外に方法が無いのも事実なのです。
基本的には充分に捏ねられた生地だからこそ、ある程度のソフトなパンになる訳で、パン焼き機でしっかりと捏ねなければ、とてもソフトなパンにはならないでしょう。
ですので、パン焼き機での生地捏ねは、生地に相当の負担をかけていますし、捏ね過ぎではありますが、その後の事を考えた場合致し方ないのだと言う事になるのです。
もしも質問者様の言うように、生地を捏ねるだけにとどめて、あとは自分で分割成形をしていると言うような場合は、やや早めに捏ねるをやめておいた方が良い場合があります。
混ぜ物をする場合などは、尚更その様にする事をお勧めします。
家庭でパンを作る方の中には、捏ねるだけを機械で行い、その後は手作りすると言う方が非常に多いと思われます。
作る楽しさが味わえますし、種類も色々作れてとても有効な手段だと言えると思います。
それに反して、捏ねることから手で行う方が非常に少ないのが残念でなりません。
恐らくはそれが、大変な行為であると言う事に関係してくるのだと思います。
バタンバタンによいしょよいしょで約20分位の悪戦苦闘であるとの判断ですよね。
もちろんそれが一般的な手捏ねなのですが、いわゆる一般的ではない捏ね方が実はあるのです。
事実、私は一切バタンバタンと叩いたり、ズリズリと作業台にこすりつけるようなことはしません。
しいて言うなら、体重をかけてゆっくり揉むだけです。
それで、どのようなパンであっても、一度に小麦粉2kg以上は手で捏ねる事が出来ます。
バタンバタンと生地を叩きつける捏ね方は、マンションやアパートではとても出来ませんし、実際には家庭でもとても迷惑ですよね。
考え方によっては生地も迷惑かも知れませんよ(笑)
パン焼き機にはじまり、機械で捏ねると言う考え方は、今では当然のことであり、それなしではとても商売にはなりません。
しかし、それにより全般的にただフワフワした物体を作り上げていると言うのも現実なのです。
小麦本来の旨味と言うのは、そのフワフワに中には存在しません。
ですから、副材料が必要になる訳で、それもおかしな話だと言えないでしょうか。
小麦粉を変える、捏ね方を変える、発酵時間を変える、発酵温度を変える、それだけでも無数の味と風味の違うパンが完成します。
そこに、水や塩をちょっと変えるだけでも更に変化が味わえます。
機械で100%捏ねてソフトな生地を作り、そこにどのような具材を加えるか・・・
それはどこまで行っても大手製パン会社が考える事です。
ならば手作りは、大手にはできない、つまり機械では出来ない、機械では出しようが無い旨味を追求したいものですよね。
なんでもかんでもしっかりと捏ねなければパンにならない訳ではありません。
製法と工夫次第で、大汗をかかなくても充分にしっとりとした、捏ね過ぎではないソフトなパンは作れるのです。
ではどうすればよいのだ・・・・・ それにはこうして下さい・・・・と言う訳にはいきません。
各個人個人の技量と配合と原材料と設備により、やり方は違ってきます。
ですのでそれは、あくまで直接お逢いして説明する以外に方法はありません。
ならば書くなと言われそうですが(^_^;) パン作りを自分流にこなす、センスのあるうらやましい方がいます。
逆に、何を教えてもまったく習得できない方もいます。
どちらであったとしても、家庭レベルなら基本楽しければ良いと思うのです。
しかし、商売でパンを作っていると言う人は楽しければ良いと言う訳には行かないはずです。
自分に足りない技術や知識を必死で埋めようとして、ネットを使い勉強をしているパン屋さんや、パン屋とまではいかなくとも、パンを作って収入を得ている人が多くいらっしゃいます。
その様な方々からの問い合わせは相変わらず多いので、ご苦労はよ~く解りますし、出来る事なら経費をかけずに色々な情報を得、自らの力で切り開いていくという考え方も実に正しいと思います。
そこに私が何かのアドバイスをしたとしても、結局その後は自らの力で頑張って頂かなければならない事に変わりはありません。
ただし、見たり聞いたり読んだりした事と、直接技術を目にする事では大きな違いがある事だけは確かだと思います。
各種講習会や展示会などで、プロの方が実技を披露している場にどうか足を運んでみてください。
お店を休んででも行く価値、見ておく価値はあると思います。
一般の方でも、近所にある製パン問屋さんなどで定期的に講習会が開催されていますので、お願いすれば参加出来るはずです。
百聞は一見に如かずです。
プロの生地の取り扱いを、しっかりと自分の目で見る機会を作る事をお勧めしたいと思います。
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