とにかく重要な温度管理
さて、生地を捏ねる前と捏ねた後の温度を計り、いったい何度摩擦上昇したのかがとても重要だと言う事を説明してきました。
家庭でのパン作りでは、特に手で捏ねていらっしゃる方々は、はたして自分の捏ね具合はこれでベストなのか、それとももう少し捏ねるべきなのか??・・・はたまた捏ね過ぎたり生地をいじり過ぎてはいないだろうか???? そんな迷いは尽きないと思います。
紹介した摩擦上昇温度が、ほぼ毎回同じになっていれば、ほぼ毎回同じような完成度のパンが出来るはずです。
しかし、それは毎回同じレシピで同じ硬さの生地であった場合にのみ適用される理論ですので、色々なパンを作っていらっしゃる方は、また次に同じパンを作るまでにはかなりの日数が経過してしまう事もあると思われます。
摩擦上昇する温度それ自体は、冬でも夏でも同じなのですが、環境作りが違ってきますし、お湯を使ったり冷水を使ったりと材料の温度管理も変わってくる訳ですから、とてもややこしく感じる時もあるでしょう。
ですので、データを取る事だけは習慣づけていただきながらも、とにかく生地の完成した時の捏ね上げ温度だけは守るように心掛けてほしいのです。
何度摩擦上昇したのか???・・・・・ではなく、とにかく希望捏ね上げ温度まで捏ねる事。
それだけはどんな種類のパンを捏ねる場合でも、特に注意しながら行って欲しいと思います。
パン生地を捏ねる際の捏ね方は、捏ねる人によって全くやり方が違うと思います。
生地をとても乱雑に扱う人もいれば、気を使い過ぎて捏ね方が足りない人もいると思います。
しかし、パン生地の命である風船の形成に影響があるのは、意外にもどう扱ったかではなく、温度に関係があるのです。
今日は十分満足がいくまで捏ねたぞ・・・・と思っていても、生地の捏ね上げ温度が25℃であったら、それはまだまだ捏ねが足りていない場合が多いのです。
逆に、今日はもう疲れたからこの辺でやめておこう・・・・と思ったら、意外にも生地の捏ね上げ温度が32℃になってしまった。
そんな場合は残念ながら捏ね過ぎに相当してしまうのです。
だったら、初めから高めの温度で生地を作っておけば、あまり捏ねなくても良いので楽で良いじゃん・・・
気持ちは解りますが、それは美味しいパンにはならないのです。
実は、家庭でのパン作りで一番多いパターンがこのパターンなのです。
寒い部屋の中で暑いお湯を使って生地を捏ね始め、最初に30℃位あった生地の温度が、捏ねて行く間に冷えて行き、最終的には28℃になった・・・・みたいな。
最初に生地の温度が何度であったかと言うのは、ほとんどの人が計ってはいませんので、このような事が起こってしまっていてもおかしくはないのですね。
そしてなんともまずいパンが出来てしまうのです。
このような場合は、摩擦上昇が全く無い状態で生地が完成してしまいますので、しなやかでコシの強い風船は作れません。
また、生地のスタート温度が高いと言う事は、イースト菌の活動はすぐにも始まり、生地が捏ね上がる頃にはもうほとんどのガスを使い果たしてしまっています。
そして皮の厚い、膨らみの悪い、焼き色のぼけたパンが完成してしまうのです。
ですので、スタート時の生地の温度を計ると言う事は、とても大切な事なのですね。
では逆に、スタート時点の生地の温度が低過ぎた場合はどうなのでしょうか?
この場合は、いくら捏ねても生地の温度が27℃以上にならない場合は、最適なグルテンの形成は行われていない事になるのです。
もういい加減捏ねたけど・・・・まだ駄目なの?
これ以上捏ねたら生地切れする様な気がするんだけど・・・
そう思ってやめてしまうと、やはり美味しいパンは出来ないのです。
しかし、実際にはただひたすら捏ね続けると言うよりも、途中で温度を計ってみて、まだまだ低いなと感じたら、手を暑いお湯に付けて温め、その暖かい手で包み込むように捏ねると、すぐに温度は上昇してくるでしょう。
そのように色々と工夫しながら、最終的には必ず希望の温度に捏ね上げる事が大切なのです。
1にも2にも大切なのは生地の温度
ここまでの話を総合すると、生地のスタート時の温度は高過ぎては決していけないと言う事と、低過ぎた場合は途中で温めながら捏ねて希望温度に到達させる事、そして何よりスタート時点の温度を計っておく事が重要であると言う事を憶えておいて下さい。
これらの事から、スタート時点の生地の温度は、全般的に24~26℃位が丁度良いと言えるかもしれません。
ただし、捏ね器を使っていらっしゃる方は、もう少し低い方がいいかもしれません。
捏ねると言えば、お餅も捏ねる食べ物ですが、お餅の場合はこんなに温度がどうのと言う事はありませんよね(^0_0^)
パン生地の場合は、捏ねてグルテンと言う風船を作りながらも、酵母の活動にも気を使わなくてはならないということで、このように温度にややこしくなってしまうのですが、この温度の大切さを一度理解してしまえば、後はパン作りと言うのはとても楽しいものになってくると思うのです。
パン生地を捏ねる意味・・・お解りいただけましたか???
では、特に寒い時期の注意点をもう一つだけ紹介しておきましょう。
パン生地と温度の関係はもうある程度理解していただけましたね(#^.^#)
しかしその温度管理が大切なのは、生地を捏ねている時だけの事ではないのですよ。
意外な落とし穴は、実はベンチタイムにあるのです。
温度管理のキモは実はベンチタイム
しっかり希望捏ね上げ温度で完成されたはずの生地なのに、焼成後にブツブツが出来てしまったり、膨らみが悪く焼き色が濃く皮の厚いパンになる事があります。
これらは皆、作業中に生地の温度が下がってしまった事による障害なのです。
生地は分割されて小分けになると、どうしても冷えやすくなります。
ですので、分割した後は必ず暖かい場所に生地を保管して下さい。
成形する前に生地の温度を計り、捏ね上げた時よりも下がってしまったら要注意です。
そんな時は、暖かい場所でもう数十分置いてから成形して下さい。
どうせ成形した後は暖かい発酵室に入れるのだから、そこはあまり気にしなくても・・・ いえいえ、そこが肝心な所なのです。
まさに家庭ではここで失敗している人がほとんどでしょう。
ここまでで、生地の捏ね方と温度の密接な関係はなんとなく理解していただけたと思いますが、もう少し説明しておきましょう。
パン生地にはコシと言うものがありますね。
これは、叩いたりたたんだりした時に戻ろうとする力であり、いわゆる弾力と言えるものですね。
この弾力のお陰でパンは見事に膨らんで、ふんわりとした焼き上がりになる訳ですが、この弾力のもとになっているのが生地の中にあるグルテンと言う風船達なのです。
この風船達の強さとかしなやかさが、パン生地のコシを左右する訳ですが、実はここでも温度が非常に大切になってくるのです。
温度が低い時に成形しても、生地には適度なコシは入らないのです。
また、逆に温度が高い時には、コシが強くなり過ぎてパンが暴れてしまうのです。
上手に成形したはずなのに、何となくペタンとしたパンになってしまった・・・・そんな場合はベンチタイムで生地が冷えてしまった時なのです。
逆に、オーブンの中で暴れて形が変になってしまうような場合は、成形する時点の温度が高過ぎた場合なのです。
せっかく一生懸命捏ねて、希望捏ね上げ温度までは順調だったのに・・・・・ そんな時はどうか思い出して下さい・・・
パン生地は、最後まで温度を一定に保つ事が最大のコツである と言う事を・・・
捏ね方や生地の扱い方、そして発酵時間が重要だと言う事は皆様もご存知の事だと思います。
しかしそこには、必ず温度と言うものが関係してくるのです。
何度も質問にお答えしても、結局温度を計る事を実行していないという質問者様は非常に多いのが実情です。
何が一番重要なのか? その事を無視しておきながら、いくらレシピを見直した所で、それは本末転倒と言うものです。
是非温度計を用意して下さいね(#^.^#)