パン生地に具材を包む時の注意点
こんな質問をいただきました。
パン生地はすべて手作りをいたしますし、具材なども全て自分で作ったものを使っております。
パン屋さんのようにふっくらとはいかない時もあるのですが、子供達に食べさせるものはやはり安全第一にしたいですし、できる事なら添加物は避けたいと考えそのようにしているのですが、どうしてもうまくいかない事がありご連絡させていただきました。
一つは焼きカレーパンなのですが、うちのカレーパンは具がたっぷり入っているので子供達にも大人気なのですが、見た目があまりにも醜いと言いますか焼き色がとても不安定な感じになっていて、時々生地を破ってカレーが飛び出している事もありますので、ちょっと他人様にはお裾分け出来るようなものとは言えません。
もう一つがクリームパンなのですが、やはりクリームが半分位ははみ出してしまう事と、これも焼き色が非常にまだらな感じに焼けてしまいます。
自分の家で食べる分にはいいかな??と思っていたのですが、私の作るパンを楽しみにしてくれているご近所のママ友がたくさんいますので、その時にははみ出した部分は綺麗に拭き取ってから差し上げたりしてごまかしております(泣)
そこで質問なのですが、具がはみ出してしまっても大丈夫なようにと量を多く包んでいるのですが、先日はわざと少なめに包んでみたのですがやはりはみ出してしまいました。
これは包み方がいけないと言う事なのでしょうか?
それと焼き色がまだらな感じになるのは、具を入れ過ぎるからなのでしょうか?
具を少なめにした時には、具がはみ出す事はありましたが、表面は綺麗な感じで焼けておりましたので、そのように感じております。
コーンを乗せたパンやフランクを乗せたパンの場合はとても綺麗な出来栄えに完成するのに、なぜか包みものだとすべて上手く出来ないのは、やはり成形がへたくそであるということにつきるのではないかと自分なりには感じているのですが、包む際に何かこつのようなものがあるようでしたら是非教えていただけたらと思い・・・
とても良い質問をいただき、ありがとうございます。
何かにつけて触れてきた部分ではあると思いますが、ご家庭においても、または製パンの現場においても、基本中の基本でありながらも、なかなかクリヤー出来ていない部分なのがこの ”具材を包む技術” であると言えると思うのです。
まずは質問者様の作るパンに関して、どこがいけないのかを検証して参りましょう。
一言で成形技術と言っても、それは非常に深く、文章には出来ない部分が沢山あることは事実です。
パン生地の数だけ、レシピの数だけ、成形する人の数だけコツが存在していますので、今回は質問者様の場合だけを例にとって考えさせていただきます。
まずは生地ですが、一般的なバターロール生地タイプの配合ですので、特にいつも通りに作られているようでしたら問題はそこには無いと思われます。
ただし、生地が硬いと具材がはみ出しやすくなる事は確かですし、製パンの全般的な考え方として、捏ね上げ温度が低い場合、あるいは生地が分割成形の段階で冷えてしまった場合などは、どうしても焼き色がまだらになりやすいので、その点に注意が必要な事は当然あるとお考えください。
では、特に生地に問題がないと判断した場合、具材の何に問題があるのか、あるいはコツのようなものがあるのかを考えていきましょう。
パン生地に包む具材づくりのコツ
質問者様のお宅では、すべて自家製の具材を使っていると言う事でした。
自家製の安心感と味と言う部分では理想的な具材であると思うのですが、これをパン生地に入れるとなると少なからず注意しなければならない事が発生してくるのです。
それは概ね、水分量と言いますか、水っぽさ??が原因だと言う事なのです。
ジャムパンの包餡が難しいと言う事は他のカテゴリで説明しましたが、クリームやカレーなどもほぼ同じように焼成中に生地の内部で沸騰してしまうのです。
すると空洞が出来、それでおさまらないと今度は生地を突き破って外へ飛び出してしまうのです。
この焼成中に沸騰してしまうと言う現象は、ジャムの場合は砂糖が多いと言う事が原因だったのですが、クリームやカレーの場合は今度は水分が多いと言う事に起因しているのです。
では、なぜ自家製の具材は水分が多いのかと申しますと、実際には水分が多いと言う事なのではなく、具材単体で言えば当然の水分量なのです。
しかしそれは、パン生地に包んで焼くには不向きな水分量であるということになってしまうのです。
業務用に出回っている具材と言うのは、そのあたりを上手くコントロールして作られていて、水分を上手く内部に閉じ込めた状態を保つ工夫がされているのです。
ですので、一般的にパン屋さんが使用している具材を使って作る分には、成形技術の優劣は存在しますが、具材の水分を気にする事は無く使用できるという利点があるのです。
では、家庭で自家製のカレーやクリームを包む場合はどうしたら良いのでしょうか?
一つには、ある程度煮詰める事で水分を飛ばして使用するという手段があります。
例えばカレーの場合は、カレーライスの残りを使っていると思いますので、カレーライスはそのまま楽しんでいただき、残りは鍋に入れて弱火でじっくりかき混ぜながら水分を飛ばしていくのです。
また、カレーの水分と言うのは何も水だけではありません。 玉ねぎやじゃが芋の水分が非常に多い事も、カレーの水分量に関係してくるのです。
ですので、もしもカレーパン専用にカレーを作るのであれば、出来る事なら水分量の多い野菜は入れない方がベストであると言えます。
それでも家では野菜ゴロゴロがお気に入りなんだ・・・・と言う場合もある事でしょう。
そんな時には、全般的にじっくりと煮込んで水分を飛ばしていただくか、あるいはカレーには野菜を入れないでおいて、成形の際に野菜を一緒に入れると、カレーが沸騰するという部分はクリヤーされ、適度に野菜にもカレーが浸みこんで美味しくなると思われます。
いずれにしても、具材とカレーそのものの水分を減らす事が、パン生地に包んだ時に具材を安定させる要素なのだとい言う事だけは憶えておいていただきたいと思います。
カスタードクリームも同様で、いつもよりもやや煮詰めて硬めに仕上げる事で非常に安定しますし、初めから牛乳を減らしておくと言う事も効果があると言えます。
同様に卵を減らすとか、粉を増やすとかの手法はあると思いますが、あくまで味を見ながらコツを掴んでいただければと思います。
菓子パンの表面を美しく仕上げるために大切なことは
さて、水分量をコントロールする事で、具材がはみ出したり空洞が出来る事はある程度クリヤー出来たとします。
すると次の問題は、まだらな表皮の完成度が何とかならないかと言う事になります。
この点は、実は質問者様だけの問題ではありませんよね。
どのパン屋さんに行っても、何だこれは!!!
と言いたくなるようなパンが多いのが実情です。
とは言え、その事に気がついていないお客様は多いと思います。
何故なら、それがこのお店のパンなのだと勝手に納得してくれているからにほかなりません。
つまり、美味しければ良いと言う事が最終判断になっていることが多いと思うのです。
しかしです・・・ 仮に表皮がまだらでも美味しいパンだと思えるのならば、それは生地の配合や具材がとても美味しいからに他なりません。
だとしたら、きちんとした技術があれば、もっと美味しくなると言う事になるはずですよね。
ですから、私達はけしてそこであきらめてはならないのです。
ただし、その部分は技術的要素を多く含みますので文章にする事はとても出来ません。
ですので、要点だけを簡単にまとめますと、とにかく肉厚にする事です。
肉厚と言う事は生地の厚みを多くすると言う意味で、生地重量を多めにする事にもつながるでしょう。
具材は当然ながら発酵はしませんので、成形後もそのままの状態で存在している訳ですが、生地の方は前後左右及び上下にも膨らんでいきますよね。
その際に具材の水分や、例えばカレーのじゃが芋のゴツゴツなどによって内部が滑らかに膨らんでいきずらい状態になっているのです。
その結果表面が薄くなり、さらにそれがオーブンで膨らんでいく過程において、破けてしまったり、あるいは部分的に薄い部分と厚い部分が混在してしまう事で焼き色が付いている部分と付いていない部分に別れてしまい、まだらになってしまうのです。
人がジャンプしようとすると、そこには硬くしっかりとした地面が必要です。
仮にそれがぶよぶよとした水っぽいぬかるみであったなら、高くはジャンプ出来ません。
生地も同じで、充分に膨らんでいく過程において、水っぽい物やゴツゴツとした土台の上では綺麗に伸びていく事が出来ないのです。
それを解決する為には、ある程度の肉厚である事と、水っぽさに負けないようなしっかりとした生地であると言う事なのです。
とは言え、トロ~りカレーとか、なめらかクリームとか、なめらかプリンなどのように、原型をとどめるのが難しい位水分量の多い具材があえて使われていたりするのも現実です。
例え包む事が無謀な具材であっても、あえてそこにチャレンジして、見た目が悪くても売れている商品もたくさんあります。
ですので、最終的には作り手の思いがどこにあるのかによると言う事になるとは思いますが、完成品の綺麗さに興味が無いと言う人でない限りは、やはりより美しい完成度を目指したいと思ってもらいたいものですよね。
パン屋さんに入り、一通りパンを見渡すと、全体的にとても整っているお店があります。
そのほとんどは冷凍生地を使ったお店だと言えます。
逆に、大きさがまちまち、焼き色がまちまちなお店の場合、手作りであると言えます。
この判断基準はどうなのか???と少し悲しくなってしまいますが、現実にはそうだと言えます。
それ位パンの完成度を揃えると言う事は難しい事なのです。
それを家庭で行おうとしたら、当然難解でしょう。
しかし家庭の場合は量産と闘う必要がありません。
パン作りの難しさと言うのは、たくさんの量と種類を短時間で仕上げなければならないと言う所にあるのです。
その点家庭では、少量に集中できるはずです。
だからこそ、しっかりと理論を身につけてさえいれば、最高の完成度に出逢えるのです。
ご家庭なりのコツと理論で、パン屋さんに負けないお家パンを楽しんで下さいね。