冷蔵生地とは?
ここで言う冷蔵生地というのは、冷蔵庫にて発酵を管理する生地玉、あるいは生地そのものを指します。
つまり、捏ねた後の生地をそのまま冷蔵庫で発酵管理する場合、あるいは分割した後に冷蔵庫にて管理する場合を指します。
通常パン生地というのは、温度に敏感な生き物であるために、ほぼ28℃から35℃以内で作業を行っていくものですが、その生地を冷蔵庫に入れて低温で管理する事によって、発酵のスピードを変えることが出来たり、生地のこしを落ち着かせる事が出来たり、発酵時間をコントロールする事が出来たりします。
一般家庭においてのパン作りでは、ほぼすべてをその日の内に終わらせるようにしていると思いますし、パン屋さんでは発酵管理にはドゥコンディショナーを使うのが定番だと思います。
これらはいわゆるストレート法という製法で、家庭では作ってすぐに食べるでしょうし、パン屋さんではドゥコンディショナーで成形冷凍したものを翌朝に焼成するというのが一般的な製法でしょう。
特別な理由もしくは何らかの狙いが無い限りは、あまり生地を冷蔵するということは無いと思います。
ところで、ドゥコンディショナーというとても便利な機械がパン屋さんにはあるのですが、ホームベーキングの方々は何だかわかりませんよね。
この機械は、ある時は冷凍庫として、そしてまたある時は冷蔵庫として、そしてまたある時は醗酵室として使えると言うとても便利な機械の事なのです。
しかも、もっと凄い所は、これらが設定すれば自動的に変わってくれるという所なのです。
つまり、夕方に冷凍して凍らせておいて、夜中に冷蔵に変わり解凍、そして朝には醗酵室になっていて、出勤とともにパンが焼けるように発酵しているという具合なのです。
パン屋さんにおいては、ミキサーとオーブンの次に大切な設備だと言えるかもしれません。
ただし高額ですが・・・・(ー_ー)!!
パン屋さんでは、これらの設備をうまく使いながら、短い営業時間を如何に有効に使うかというのが一つのテクニックになっています。
すべてのパンをその日の早朝から作っていたのでは、とても間に合わないからですね。
冷凍生地を使ったパン作りは、皆様すでにご存知だと思いますが、凍った生地を解凍して成形してすぐに焼くと言う場合もあれば、成形した後ドゥコンディショナーに入れて翌日に焼くというやり方もあります。
ドゥコンディショナーで発酵管理された生地を、翌日に焼くというのは、パン屋さんにとってもはや当たり前の製法になっていると思われますが、問題はそこに至るまでのパン生地作りに、パン屋さん独自のこだわりがあるかどうかだと思います。
それは、レシピそのものであったり、原材料のこだわりであったり、製法であったり、いろいろと工夫をしていることと思われます。
では、家庭ではいかがでしょうか?
そもそもパン屋さんに色々な製法が存在するのは、より多くの種類を営業時間内に焼かなければならないからであり、作業時間の短縮を図るためには、どうしてもすべてを同じ製法と工程にすると無理が生じるからに他なりません。
家庭でのパン作りにおいては、パン屋さんのような量との戦いがありませんから、特に発酵をコントロールする必要が無いというのが現実だと思います。
しかしちょっと考えてみてください。
今日はパン生地のみを作る日、そして今日は成形だけを行う日、そして今日は朝食に焼きたてのパンを食べる日という具合に、パン作りそのものを分散させ、数日間は焼きたてのパンが食べられるとしたら、少しパン作りに対する認識が変わってくるのではないでしょうか。
一回作れば3日は焼き立てを食べられる冷蔵法のメリット
もちろん、パン焼き器で毎朝焼き立てのパンを食べている方にとっては、関係のない話しだと思いますが・・・・ でも、今までパンを手作りしてきた人にとって、あのパン焼き器で作ったパンで本当に満足なのでしょうか?
あのパンは、パンの理論から言えば間違ってはいない素晴らしいパンだと思います。
というか思いたい・・・・・
例えば理髪店のハサミやシェーバーなどが付いた丸い箱があるとします。
そこへ人が頭を入れ、そのハサミやシェーバーの刃に頭の向きを変えながら押し当てていき、散髪が完了する。
しかし、確かに髪は切れているが、その人の頭の形に合わせた絶妙なカットと言うわけにはいきません。
それはやはり技術的な感性が加わって、はじめて納得の出来る髪型になるのではないでしょうか?
人の手が加わることで生まれ変わる食品、それがパンだと私には思えてなりません。
家庭でパンを作ろうと思ったら、かなりの時間拘束される事になり、発酵時間はなんだか無駄に思えても来るでしょう。
どうせ技術があるわけでもないし・・・でも焼きたては魅力だ・・・・ そんな思いをかなえた画期的な機械である事は言うまでもありません。
人間の知恵と開発力には、ただただ脱帽です。
しかし、それでも手作りを辞めない ”こりない面々”
そんな方々には、冷蔵庫を使った製法がきっとお役に立つと考えます。
ここでは、その代表的な作り方を説明し、冷蔵する為の理論をお話ししていきます。
ただし、どのような製法にもやはり技術はつき物です。
すぐにパーフェクトと言うわけには行かないでしょうし、色々なパンで試したいと言う方も出てくるでしょう。
今までのパン作りとは大いに理屈が違ってきますので、そのあたりに注意しながら読み進めてください。
冷蔵生地づくりの注意点
今回ご紹介するのは、一般的なロールパンを作る場合の工程についてです。
このパンは甘さが中程度で、しっとりと柔らかい為に、甘い具材にも合いますし、調理パンにしても良く合いますね。
焼きそばパンやフランクなどが乗せられた、あのパンなどに使われている生地のことですね。
レシピは特にこれで無ければならないと言う事はありません。
注意しなければならないのは、しっかりと捏ねる事と、捏ね上げ温度をやや低めの26℃位を目指すこと、以上の二点だけです。
この生地を約30分程通常発酵させた後、ビニールあるいはラップを敷いたステンレスの入れ物に入れます。
入れ物は、高さが3センチ程の浅いものを用意してください。
形は丸でも四角でも構いませんし、蓋は必要ありません。
但し、生地が膨らんでも大丈夫な容量を選んでください。
その入れ物に生地を入れ、上からしっかりとつぶしてガスを抜いてください。 大き目のビニール袋で入れ物ごとスッポリとくるんでしまうか、あるいはラップでしっかりと包んでください。
それを一般的な冷蔵庫の温度である5℃の場所に入れますが、数時間でかなり膨らんでくると思います。
ですので、膨らんでも大丈夫な場所を選んでいただく事と、ラップが生地によって剥がされないように、余裕を持った包み方をして置いてください。
そして、ここが肝心なポイントなのですが、数時間たって生地が膨らんできた所で、今一度しっかりと生地を潰して置いてください。
すると、その後はもうあまり膨らんでは来なくなります。
こうなったら、後は翌日以降三日間位は、このままで冷蔵保管が可能になります。
必要な時に生地を取り出して、必要なだけ分割して、後はまた冷蔵庫へ速やかに戻します。
その際に生地が膨らんでいるようなら、またしっかりと潰しておいてください。
生地が膨らんだ状態で冷蔵保存をすると、発酵が不安定になるばかりでなく、味がかなり落ちてしまいますのでご注意下さい。
また、冷蔵にはビニールのタッパーなどは使用しないで、できるだけステンレスの入れ物を使ってください。
これは、生地を速やかに冷やす為に絶対に必要なポイントです。
分割した生地は、一度丸めた後通常通りのベンチタイムをとります。
当然ながら、この時生地が乾かないように注意してください。
この段階では、いつものようには膨らんではこないと思いますが、成形できるような状態になりましたら、成形して発酵させていきます。
冷蔵庫で冷えた生地になっていますので、生の生地に比べるとやや発酵に時間が掛かるかもしれませんが、生の生地に比べると、非常に多くの気泡が内部にありますので、オーブンではしっかりと膨らんでくれます。
配合によっては、成形時にベタベタしたり、最終発酵時にもベタベタと濡れた生地になる事があるかもしれません。
そのような場合は、成形前にしっかりと生地の温度を上げてから作業に入ると、ベタベタは避けられると思います。
一般的に、生地の温度が16℃以上にならないと、発酵がうまく進まない事があります。
ですので、生地に温度計を刺して、生地の温度を常に測ることをお勧めします。
冷たいままで成形しても大丈夫ならそのままで、もしベタベタするようでしたら、生地の温度が16℃以上になるまでは常温にて待ち、温度が上がってきたら成形に入るようにすれば、問題はないと思います。
低温にて、ゆっくり熟成されたこの生地は、キメが細かくしっとりとしたパンになります。
ただし、冷蔵庫で膨らんでしまったり、日にちが経ちすぎると、アルコール臭いパンになりますので、生地の管理には十分注意して行ってください。
この製法の利点は、今日は捏ねるだけ、明日は分割から始めて焼くだけ・・・・と言う具合に作業を分散させることが出来るというところにあります。
また、量が多い場合や、朝のパンを焼き立てでとお考えなら、今日は生地を捏ねて、明日は分割から成形までをして冷蔵保管しておき、あさってはそれを最終発酵させて焼くだけということも可能です。
成形した生地は、冷蔵保管中に中途半端に膨らんでしまう事があります。
そうなると、生地は乾燥し、クラストの固いパンになってしまいます。
それを防ぐには、成形は生地の温度が低いうちに速やかに行い、しかもしっかりとガスを抜く事。
更に少し低めの温度であるチルド室にて保管する事をお勧めします。
それでも少しは膨らんでくると思いますが、生地が乾燥さえしていなければ、その後の最終発酵で表皮もしっとりとしてくると思われます。
レシピや使用材料、小麦粉の強さなどによって、コツが違ってくる事は言うまでもありませんが、この製法をマスターすると、かなりの品数が一度に揃いますので、小規模のパン屋さんにもお勧めの製法となります。
しかも、低温長時間熟成された生地は弱酸性ですので、非常に喉通りの良いパンになりますし、消化に良い。
良い生地かどうかの見極めは、通常のパンとほぼ同じだとお考え下さい。
捏ね上げ温度が低すぎたか、捏ね方が足りなかったか、粉が弱いか古いか、イースト量に問題があったか、成形時のガス抜きが悪かったか、ホイロの温度が高すぎか・・・・
逆に、色つき悪い、変な膨らみ方をしている、パン底がへこんでいる、生地が荒れている、クラストの肌が汚いなどの場合は、生地の捏ね上げ温度が高すぎたか、生地が冷蔵庫で膨らんでしまったか、ビニールがきちんとかけられていなかったか、イースト量が多すぎるか、捏ね過ぎか・・・などなどとなりますよね。
そうですか・・・と言ってすぐに上手に出来るかどうかは解りませんが、製法の違いによってパンの品質がどのように変化していくのか・・・・ 色々と試してみた方が楽しいのは確かですよね(*^_^*)
今回は、イースト菌の温度に敏感な所を利用した製法を紹介しました。
難しさは通常のパンとあまり変わらないと思います。
興味を持った方は、是非トライしてみてくださいね(^0_0^)
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