やっぱり手作りパンが好き

ご家庭でのパン作りをとことん応援します。長年のベーカリー経験とパン教室経験にもとづく、超解りやすい解説を心がけています。

冷蔵庫を使ったパン作り

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今回は冷蔵庫を使ったパンの作り方について説明していきたいと思います。

色々と調べたり、書籍などを見ながら何度も自宅でパンを作っているという方なら、一度は試したことがあるかもしれないのがこの生地冷蔵法という製法なのですが、ある意味とても簡単だとも言えますし、そうは言ってもなかなか安定しないというお悩みもあるようです。

そこで今回は、ご家庭で実践的に行うことが出来る生地冷蔵法について詳しく解説しながら、その効果と問題点などを探っていきたいと思います。

 

そもそも冷蔵法ってなに??

 

冷蔵法というのは、パン生地を捏ねた後にある程度発酵をとり、その後は冷蔵庫で保存しながら低温熟成させて、翌日以降に分割・成形・焼成を行おうというものです。

その利点は非常に多く、

 

1、パンがしっとりと焼き上がる。

2、当日分割から行えるので時間短縮で焼き上げることが出来る。

3、数種類用意しておけば、一度に色々なパンを焼くことが出来る。

4、最大4日程度冷蔵保存しながら、毎日日替わりで焼くことが出来る。

5、パン作りの合間の時間に次の日以降の生地を捏ねることが出来る。

6、捏ね時間を大幅に短縮しても、しっかりと膨らむ生地が出来る。

 

とまあざっと見てもこのような利点があり、小規模のパン屋さんには特におすすめの製法でもあります。

 

他方欠点と言うほどではないにしても、いつものパン作りとは多少違った気遣いが必要になります。

 

1、復温の温度管理が難しい。

2、成形までの生地の見極めが難しい。

3、配合によって作り方のタイミングが違うので難しい。

 

ということで、ここだけを見ればとても難しく見えてきてしまいますが、考え方の基本さえ押さえておけば、今日は捏ねるだけで、明日以降4日間にわたって焼き立てを味わうことが出来るという製法な訳ですから、試してみる価値は十分あると言えるでしょう。

 

ではまず取り組むにあたって、基本的な考え方から説明しておきたいと思います。

 

冷蔵生地で上手にパンを焼くための知識

 

通常パン作りでは生地の捏ね上げ温度というが非常に重要になりますよね。

いつもは28℃位で作っていたパン生地が、たまたま20℃位になってしまったとしたら、それはそれはなかなか膨らんできませんし、待ちきれなくて分割成形を行おうものなら、ベタベタとして膨らんできませんし、最終的には「あちゃ~」みたいなパンが完成することになります。

逆に、32℃くらいになったとしたら、どんどん膨らんできますからいつもよりやや早めに分割成形を行うと思いますが、それにしても生地がなんか乾燥気味でうまく成形することが出来ない、とじ目が開いてしまって具が飛び出してしまう、焼き色がなかなか付かない、なんとも肌荒れしたパンが完成することになります。

このように、通常のパン生地づくりでは捏ね上げた温度によって、その後の発酵コントロールが難しくなる訳です。

では冷蔵法ではどうかと言いますと、もちろん捏ね上げ温度がある程度一定であってほしいことは同じですが、若干の発酵時間をとった後は冷蔵庫へ入れますので、その後の発酵管理は冷蔵庫任せになる訳です。

ですので、捏ね上がって数時間から使い終わるまでの数日間は、温度管理や発酵時間に悩まされることはないわけです。

ここは非常に助かる点ですよね。

では、冷蔵庫へ保存した生地と言うのは、その後何に気を付けながら作っていけば良いのでしょうか。

まずは冷蔵庫から出した生地というのは、すぐに分割して丸めます。

この時の生地の温度はかなり冷たいことになりますよね。

この冷たいままの生地をすぐに成形してしまうと、ペターっとした膨らみの悪いパンになってしまいますので、ある程度生地の温度が上がるのを待ってから成形を行うというのがとても重要な部分なのです。

基本的にはどのようなパンでも冷蔵保存は可能なのですが、高配合の菓子パンやブリオッシュなどはやや低めの温度から成形を開始しても大丈夫なのに対して、リーンなハード系や食パンなどの生地は、生地の温度を20℃以上にしてから成形するようにします。

 つまり、砂糖や油脂が多い生地は生地温度15℃位で成形し、砂糖や油脂が少ない生地は20℃以上になってから成形するのが基本的な考え方になります。

非常にざっくりとですが、そのように覚えておいてください。

 

様々な配合が存在するブリオッシュですが、特にバターが30%以上配合されるようなブリオッシュの場合は、生地温度を上げている最中にバターが溶け出してしまいますので、バターがたくさん配合されたブリオッシュに限っては、分割後も冷蔵保存しながらベンチタイムをとり、冷たいまま成形に入ります。

 

成形後は通常のパン作りと何も変わりません。

とは言え、通常のパン生地は成形後の生地温度が26~28℃位なのに対して、菓子パン系だと20℃に届いておらず、ハード系でも20℃前後となる為に、発酵室の温度よりもかなり低くなっていますので、冷蔵した生地を発酵させるときには発酵室の温度をやや低めにスタートして、いつもよりもゆっくりと発酵させてほしいと思います。

 

以上が冷蔵生地の基本的な注意点となります。

 

では次に、冷蔵法独自の準備と工程について説明していきましょう。

 

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冷蔵法ならではの前準備とは

 

冷蔵法を行うには、タッパーが必要となります。

タッパーはプラスチックのものやガラス、あるいはステンレスなど様々な素材がありますが、ご家庭での場合は普通のプラスチックでOKです。

少し多く捏ねました・・・というような時には出来ればガラス、そしてかなり多く捏ねました・・・と言う時にはステンレスがオススメではあります。

なぜかというと、その方が良く冷えるからですね。

プラスチックとかポリですと中心部がなかなか冷えなくて、蓋を持ち上げて生地があふれてしまう場合があるからです。

だからと言ってあまり少量を大きなタッパーに入れてしまうと、生地が低温発酵中にダレてしまってふんわりと焼けないパンになりますので、どのタッパーにどれだけの量の生地を入れるかと言うのがコツの一つになるのですが、詳しくは後程説明していきます。

 

また、冷蔵法ですから当然冷蔵庫が必要な訳ですが、概ね2℃~5℃位の温度帯で冷蔵していきます。

タッパーの蓋はゴムでもプラスチックでもステンレスでも構いませんが、ビニール袋やラップで蓋をするのはNGです。

後々説明しますが、蓋はしっかりと閉じるものを使ってください。

そうでないと、ラップやビニールだと突き破って生地があふれてしまう場合があります。

タッパーに生地を入れる際に油を塗るかどうか気にされる方がいるようですが、それはどちらでも構いません。

どのみちカードなどを使って生地を取り出すわけですから、タッパーに生地がくっついて取れないというようなことはないからです。

それでもやはりスポッと取りやすくしたいという場合は、薄くサラダ油でも塗っておけば大丈夫です。

 

では次は捏ねかたについて説明していきます。

 

冷蔵法について書かれた書籍なり、講習会などでの解説を聞いていると、冷蔵する生地というのはややしっかりと捏ねることが大切だと書かれていたりします。

また、生地は若干硬めに捏ねることがコツであることも書かれています。

しかし実際の経験上、それはあまり関係ないと私は感じています。

例えばフランスパンの場合、たしかにしっかり捏ねないとボリューム感に欠けるパンになる場合がありますが、逆にボリュームが出過ぎてキメ細かくなってしまったり、食パンのような内層になる場合があります。

発酵はゆるやかなミキシングですから、やはり低温発酵中もゆるやかにミキシングは進んでいるはずで、ならばあまり捏ねない方が逆に良いとも言えます。

フランスパンの場合、良く捏ねるということではなく、分割丸目後のベンチタイム中にしっかりと生地温度を20℃以上にして、ガスの含みをしっかり確認できた状態で成形すれば、ボリュームのあるパンになりますし、粗いクラムも実現できます。

 

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このようなパンでも、復温(生地温度を上げること)さえしっかりと出来ていれば、キメ細かくなるようなことなく焼き上げることが出来るのです。

また、画像のような内層のパンは水分が多くないとなかなか実現できません。

水を多く配合した生地、つまり柔らかいハード系パンと言うのは一見冷蔵には向いていません。

なぜなら水が遊離水となって生地内部を不安定にするからです。

このような水分の多いハード系パンを冷蔵法で行う場合、どうしても冷蔵庫から出した生地はベターっとしていますが、分割丸目後に今一度丸めるか、あるいは冷蔵庫から出して一度パンチを行い、温度が上がってきたら分割してベンチタイムをとり、その後に成形するようにすると生地にコシがついてボリュームを出すことが出来るようになります。

通常の柔らかさのパン生地なら、冷蔵から出して分割丸目し、ベンチタイムで生地温度を上げていって成形と言う流れで良いのですが、柔らかいハード系の場合はこのようにやや工夫が必要なのと、先ほども触れましたがバターを多く配合したブリオッシュなどの場合は、むしろ復温はせずに常に冷たいままで成形までを終えるのが良いと覚えておいてください。

ということで、捏ねるという工程はいつも通りでOKですが、あまり一生懸命捏ねなくても冷蔵中にタッパーの中でおしくらまんじゅうされて捏ねられていきますから、むしろいつもよりさぼり気味で終えても問題ありません。

 

冷蔵するまでの工程

 

いかなる生地であったとしても、ほぼいつも通りの捏ね上げ温度を目指して捏ね、概ね40分から60分くらいは常温で第一発酵をとります。

その後に一度パンチ(丸め直し)をしてガスを抜いてからタッパーに入れるのですが、その時の量が一つのコツとなります。

いつも通りしっかりと捏ねられた生地であれば、ある程度ゆったりと入るタッパーに入れて、蓋に届くかどうか位の量で構わないのですが、あまり捏ねなかった場合はある程度ぎゅうぎゅうに入れておしくらまんじゅうさせる必要がありますので、生地量の2倍程度の容量のタッパーに入れて、あえて蓋を押し上げるくらいに膨らんだ状態になるようにします。

生地を冷蔵して数時間経過したころタッパーをのぞくと、しっかり膨らんで蓋を押し上げるほどになっていると思います。

翌日にそのすべてを使い切るようでしたらそのまま放置で構わないのですが、何日かに分けて使うようでしたら、一度タッパーから生地を取り出してガスを抜き、今一度入れ直しておくと良いでしょう。

そうすることで発酵過多にならずに数日間は使用可能となります。

タッパーに生地を入れて冷蔵庫へ入れた後、数時間すると生地は冷えながらもしっかりと膨らんでいきます。

そのまま放置しておきますと、イーストの活動が活発に行われてしまい、翌日以降はあまり膨らまない生地になる可能性が高いのです。

ですので、翌日以降も使うかもしれない場合には、眠る前くらいには一度タッパーから出してガスを抜き、今一度タッパーに入れ直しておきましょう。

この時、リーンな生地はその後もある程度膨らんできますが、油脂が多いリッチな生地の場合は比較的おとなしくなります。

それは油脂が冷やされて固まるからで、油脂が多く入った生地の方がイーストの活動を長持ちさせることが出来ますので、冷蔵に向いていると言えるでしょう。

経験的にはフランスパン系の生地は捏ねた翌日と翌々日の二日間、食パン系は三日間、菓子パン系は四日間くらいは問題なく使用できます。

 

ということで、私自信は家でパンを作る場合はそのほとんどがこの冷蔵法を使っていますし、冷蔵法でうまくできないパンというのは無いと思っています。

ただし、何人かの方々からいただく質問では、生地がダレるとかパンが良く膨らまないというご質問を頂くことがあります。

パン屋さんからの質問でも同じ内容のものが多いです。

この、生地がダレるとか膨らみが悪いというのはどういうことなのかを少し考えてみたいと思います。

 

生地がダレたり膨らみが悪くなるのは何故??

 

冷蔵した生地というのは、基本的には普通の生地に比べてベタベタしています。

ですので手粉を上手に使いながら分割なり成形なりを行わなければならないことは確かでしょう。

ただし、それは冷蔵庫から出して冷たい状態の時はそうかもしれませんが、丸めてベンチタイムをとりながら温度が上がってくるにつれて、ベタベタ感はなくなり、いつもと同じような生地になってきます。

ですので、分割時はベタベタしますが、成形するときにはふっくらと膨らんだ後に成形するようにしましょう。

つまり、冷蔵生地取り扱いの最大のポイントは、

 

冷蔵中はヒンヤリベタベタですが、温度が20℃以上になってくるといつも通りの生地に戻るので、戻ってから成形を行うという点です。

 

復温のポイント

夏場でしたらそのまま常温で構いませんし、少し暖かい場所や発酵室でベンチタイムをとっても良いと思いますが、その際に生地が乾燥しないようにビニール袋をかぶせたり、タッパーなら蓋をするなどして乾燥しないようにしてください。また、分割重量が少ないほど復温は早くなり、多いほど復温に時間がかかることになります。ですから、食パンなどの場合は一つを200gくらいで分割するのではなく、50g位の生地として丸めておいて、復温後に四つを合体させて200gにするようにしましょう。

 

また、生地に元気がない、復温してもふっくらとせず、横にベターッと流れてしまうというような場合は、しっかりと膨らみを確認できていない状態で冷蔵された可能性が高いのです。

つまり、捏ね上げ温度が低かったか、第一発酵が不十分な状態で冷蔵してしまった、あるいはタッパーが生地量に対して大きすぎたなど、冷蔵中にしっかりと膨らむことが出来ていない生地は、いつまでたってもふっくらとはしてきません。

ですので、冷蔵中はタッパーの蓋を押し上げるくらいの元気な生地であることをしっかり確認し、もしそのような元気がないようなら今一度常温でしっかりと膨らませてから冷蔵するようにすると良いでしょう。

 

上記でも触れましたが、水が多いリーンなパンと言うのはとても難しくなります。

ですのでまずは菓子パンとかロールパン系のある程度リッチなパンで経験を積み、その後に食パン、そしていよいよフランスパンへと進むのがオススメです。

また、冷蔵生地というのは復温と言う温度を戻す工程が必要となります。

冷蔵庫から出してすぐに分割丸めしますが、冷蔵生地とは言え丸めたらベンチタイムをとらないと生地が伸びませんので、ベンチタイムと復温を同時に行う必要がある訳です。

その際、ある意味矛盾していると思われるかもしれませんが、冷蔵庫の中で非常に元気であった生地と言うのは、冷えていても膨らむ気まんまんですので、そんなに復温に気を使わなくてもしっかりと膨らんできますし、そのように元気100倍のの生地はむしろ、あまり温度を戻しすぎてしまうと過発酵となってしまうことがあります。

しかし逆に配合や使用する小麦粉の特性上、しっかりと復温しないと元気に膨らめない生地もあります。

当然ながら力の強い小麦粉ほど冷蔵中も元気ですし、イーストの量が多いほど復温はあまり必要がない場合もあります。

細かく言ってしまうと少しややこしくなりますのでここでは触れませんが、成形する際の膨らみやコシなどをしっかりと確認するようにしていただければ、そう難しいことではないはずです。

ベターッとしたまま成形すればベターッとしたパンになり、復温し過ぎて膨らみすぎてしまえば過発酵のパンができてしまうというのは、通常のパン作りと同じですから、常にどこが丁度良いのかを見極めながら作る必要がある訳ですが、まずはあまりそのあたりは気にせずにトライしてみて下さい。

 

この製法で更にご家庭でのパンライフが楽しいものになることを願ってやみません。