やっぱり手作りパンが好き

ご家庭でのパン作りをとことん応援します。長年のベーカリー経験とパン教室経験にもとづく、超解りやすい解説を心がけています。

バターと生クリームの違いとは・・・

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よりしっとりとしたパンを作る為には、その配合としてはバターがお勧めであると前回説明してまいりました。

味、そして風味を考えた場合、高価ではありますがバターをたくさん配合するというのがベストである事は言うまでもありません。

しかし、カロリーであるとかコストであるとか、現在では入手すら難しい場合もあることなどを考えると、マーガリンも充分その代用品として効果を期待出来るし、味や香りも良いものを選べば充分満足出来ると言えるでしょう。

しっとり感と言う点だけを考えた場合には、これらバターやマーガリンを含むいわゆる油脂を多めに配合するということは理にかなっている訳ですが、だからといってすべてがショートニングで良いのかと言えば、やはりショートニングだけを多く配合しても、風味や味と言う点では満足できない事も出て来ると思います。

と言う事は、しっとり感を得たいと言う事と、風味や味といったいわゆる美味しさをつかさどる部分を追求したいと言う場合とでは、少しばかり考え方が違ってくるということになります。

そのあたりを整理しながら、今一度生クリームとバターのパンに対する効果を考えていきたいと思います。

牛乳は配合するのに限界があることは前回説明したしたので、今回は生クリームとバターを使うとしたら、どのようなことを期待する場合それぞれを使い分ければ良いのかを考えていきましょう。

 

生まれは同じ牛なのに、生クリームとバターとでは格段に違いのある一面があります。

それは ”口溶け” です。

同じ油脂の中でも、バターは最高級の口溶けであることは確かなのですが、それよりも更に更に口溶けが良いのが生クリームなのです。

これは、例えばショートケーキとかソフトクリームを食べた時の事を思い出していただければわかると思いますが、食べた瞬間口の中ですぐに溶けてしまいますよね。

それに比べると、いくら美味しいバターと言えども、たくさんを口に含むとどうしても若干舌に残るような感じになります。

この現象は、生クリームの方は常時冷たいということもそうですし、より水分が多いと言う事ももちろんそうなのですが、そもそもの構造が少しばかり違っているからなのです。

生クリームというのはほぼ液体です。

しかしそれを撹拌していくとクリーム状になる事は皆さんもご存知ですよね。

そしてそのクリームがケーキに使われる訳ですが、それを更に更に撹拌を続けると、バターと水分とに分かれてしまいます。

つまり生クリームの中にはそもそもバターが入っていて、それを完全に硬めない状態のクリーム状で食べる事で、あの口溶けが得られる訳です。

生クリームを完全にバターと液体に分けないでいる状態、つまり液体の中にバターが液状で溶けあっている状態の時には、あの独特の口溶けの良さを得られるのです。

この状態を ”オイルインウォーター” と言って、水の中にバターが入り込んでいる状態と呼び、油分が水に包まれた状態で舌に触れるので口溶けが良くなるのです。

しかしバターの方はというと、見ての通り水分は目では確認できません。

触ってみても、そこに水分があるようには感じ取ることは出来ないでしょう。

その事からも解るように、バターの水分と言うのは油分の中に浸透して混ざり込んでいるのです。

この状態を、生クリームの時とは逆で ”ウォーターインオイル” と言って、油分の中に水が入り込んでいる状態と呼び、油分がダイレクトに舌に触れるので、若干油っこく感じてしまうのです。

この構造を良く理解して考えていきますと、油脂分を配合すると言う点と、味と言う点ではどちらを使っても同じような効果が得られると思います。

つまり、乳脂肪の美味しさと、油脂膜による水分の蒸発を抑える効果が期待でき、よりしっとりとした美味しいパンになると言う点ではどちらを使われても同等の効果が得られると言えるでしょう。

では、効果として大きく違う点と言うのはいったい何なのでしょうか。

 

まずはバターから見ていきましょう。

バターを多く配合したパンの最大のポイントと言えば、何よりもその芳香でしょう。

味と風味と口溶けの総合バランスを考えた場合、バターにかなう油脂は恐らくないでしょう。

独特の風味を持ち、その風味は生食でもトーストしても生きてきますので、原価が許すのであればバターを多用したいと思うパン屋さんは多いはずです。

また、人工的な合成品ではないということも万民から好かれる理由でしょう。

卵と言い、バターや牛乳と言い、パンと菓子作りにはなくてはならない原材料が鳥と牛から得られるということは、何と有難い事なのでしょう。

 

これからも長きにわたって鳥と牛にはお世話になっていくであろうと感謝しながらも、焼き鶏と牛肉が好きな自分に、人間とはいったい何様なのだろうなどと考えてしまうのでした・・・・・

 

 

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圧倒的な美味しさは認めるものの、やはりカロリーが・・・・・というのがバターの唯一の欠点だと言えるでしょうか。

現実問題としては、バターを大量に配合したりしたら、なんじゃこりゃみたいな販売価格になる事も確かですし、今後はさらに需要と供給のバランスが難しくなっていくと思われますので、バターは更に貴重品となっていくかもしれませんよね。

また、バターを多く配合したパンと言うのは、夏はいつまでも柔らかい分、冬は締まって硬い感じになりますので、色々な場面で温度管理が難しいと言う面も欠点と言えば欠点かもしれません。

 

では次に生クリームを配合した場合にはどのような効果があるかを見ていきましょう。

生クリームをパン生地に配合するには、油脂のように途中で入れると言う事はできません。

したがいまして、おのずと初めから水分の一部として水と一緒に入れると言う事になります。

バターのようにある程度グルテンをつなぎ合わせてから、ミキシングの途中で投入するのと、初めから入れてしまうしかないと言う事の差はどこに表れるのかと言いますと、それが顕著に表われるのがパンの表皮なのです。

製法の中にも一部その様な製法、つまり油脂を初めから投入すると言う製法があるのですが、そうすることで油脂分がより表面に表れます。

理屈ではグルテンのつながりを妨げる事にもなりかねない訳ですが、生クリームと言うのは特に他の油脂と違って水分に油脂分が包まれていますので、とても浸透が早く生地に入り込んでいきます。

ですので、生クリームを配合したからと言ってミキシングが長くなってしまうとか、グルテンがなかなかつながらないと言うようなことはなく、その分量にもよりますが、特に生地捏ねには問題は起こりません。

しかし現実には非常に細かく浸透している為に、焼成時には非常に大きく膨らんできます。

また、オイルインウォーター構造である為に、食べ口としても油脂分を感じずらく、しっとりとしていてなめらかなパンに仕上がります。

更にバターと大きく違う点としては、バターを配合したパンはどうしても表皮が厚くなりやすいのに対して、表皮が薄く柔らかいパンになるのが生クリームの特徴でもあります。

唯一の欠点があるとすれば、バターほどの香りは得られないと言う点でしょうか。

そう考えますと、とにかく味と香り重視と言うようなパンにはバター、とにかくしっとり柔らかい、そして口溶けが滑らかなパンにしたければ生クリームというような使い分けが良いのではないでしょうか。

生クリームと一口に言っても、実は牛乳以上に種類が存在していて、一般の方にはあまり知られていない物が多いのが実情でしょう。

表示の乳脂肪の量によって価格が大きく違ってくるのですが、乳脂肪=高カロリーと言うイメージを払拭する為だけではないと思いますが、乳脂肪の代わりに植物性脂肪の多い生クリームと言うのもたくさん存在します。

これは、バターが乳脂肪なのに対して、基本的にはマーガリンが植物性脂肪でヘルシーですよみたいなものですね。

スーパーなどではあまり売られてはいませんが、業務用では数え切れないほどの種類が存在し、香りの違い・乳化効果の違い・老化防止効果の違いなどなど、本来の生クリームからは大きく逸脱した、生クリームの様なものがたくさん開発されています。

この生クリームのようなものの作られた香りと作られた作用によって、比較的安価にソフトなパンを完成させる事が出来、こんな価格でいいの・・・・みたいなパンが出回っていると言うのが実情のようです。

とは言え、バターも生クリームもとどまるところを知らないほどに値上がりが続いていますし、これからもまだまだ続くと思われます。