ご家庭でのパン作りではあまり使われることのない製法の一つに中種法というものがあります。
配合中の小麦粉の半分、7割、あるいは全部を使って必要な材料と一緒に一旦捏ねて発酵させ、数時間の発酵後に残りの材料を加えて再び捏ねるという作り方なのですが、なぜこのような製法があるのかといいますと、パンにはこんな難点があり、その難点を少しでも克服したいと考案されたのがこれらの製法なのです。
ちなみにパンの難点というのは
1 焼き上がってから数時間経過するとしっとり感がなくなってしまう。
2 早めに冷凍などを行わないとパサパサになってしまう。
3 常温でも冷蔵でも数日でカビが生えてしまう。
4 焼きたての美味しさはほんの数時間で無くなってしまう。
などなど、とにかく短命なわけです。
つまりパン職人というのは、いかにして少しでもしっとり感を長持ちさせることが出来るかを常に頭に置きながら日夜研究しており、パンの短命はいわば宿命でもあるわけです。
とくに発酵時間が短い当日作りのパンの場合、翌日にはすでに硬くなって困ってしまうということを多くのご家庭でも経験されていることでしょう。
せめてあと一日、いや二日、いやいや出来れば三日しっとり感が長持ちしてくれたら、製パン市場も大きく変わってくると思うのですが、なかなかそうはいかないのがパンの定めなのです。
皆様も良くご存知のことだと思いますが、そもそも水分を多く含んだ食べ物というのは日持ちがしませんよね。
水分を少ししか含まない乾燥した食べ物なら常温でもカビが生えないわけですが、パンの場合はしっとりが魅力ですから、当然ながらカビもパンが大好きなわけですね。
そんなカビさんの繁殖を少しでも抑えて、しかもしっとり感が長持ちするように考案された中種法なのですが、それをご家庭で行うとしたらどのような効果があるのか、どう行えばよいのかなどについて解説していきたいと思います。
まずは一般的な食パンの配合を例に説明していきます。
100%中種法
(配合) (中種)(本捏ね)
強力粉 100% 100% 0%
砂糖 6% 6%
塩 2% 2%
イースト 1% 0.7% 0.3%
脱脂粉乳 3% 3%
バター 6% 6%
水 68% 68%
まず上記の中種の配合を混ぜ合わせていきます。
今回は100%小麦粉を中種に入れるやり方で説明していきます。
粉っぽさがなくなり、少し揉み込む程度で中種としては完了です。
それをそのままボールごとラップをして約2時間常温にて発酵させます。
室温は25℃~30℃くらい、捏上温度は25℃くらいが最適です。この間に小麦粉がしっかりと水分を吸収し、アルコール発酵が行われてパンの旨味が生まれていきます。
同時にほんの少しですが通常よりも酸性の方にpH(ペーハー)が傾きます。
これは何を表しているかといいますと、食品というのは酸性に近いほどカビの繁殖が遅くなり、梅干しにはなかなかカビが生えないように、本来のパンのペーハーよりも若干ですが酸性になったパンの方がカビの発生が遅くなるのです。
大体2時間を目安に中種の発酵が終わると、生地はかなり膨らんでいるはずです。
その後に残りの材料を混ぜて捏ねていくわけですが、中種の発酵時間にもゆるやかにミキシングが進んでいることになりますから、捏ねる時間は少なめで大丈夫となります。
そんなにしっかりと捏ねなくても、すでに中種で十分グルテンが出て生地がつながっていますので、いつもなら手捏ねは大変な作業かもしれませんが、中種なら手捏ねでも十分生地が完成します。
ちなみに本捏ねの中程で油脂を入れるというのもいつも通りで構いません。
いつもでしたら捏ねが終了して約60分程度の発酵時間を取ると思うのですが、中種で十分発酵させていて小さな風船がたくさん出来上がっていますので、この場合は30~40分の発酵時間で分割にはいっていただけます。
かなりガスを含んでふっくらしていますので、その分表皮が傷つきやすくなっていますので、取り扱いは優しく丁寧に行ってください。
生地の捏ね上げ温度は通常通りの26~28℃くらいで大丈夫です。
この中種法は小麦粉を全量中種に入れますので、本捏ねの際に水分や小麦粉などを添加することが出来ません。
ですので、柔らかさの調整とか捏ね上げ温度の調整を行いたい場合にはやや困ることがあります。
例えば中種の生地が冷えてしまって、本捏ねで温めたい場合とか、逆に中種自体の温度が高くなってしまったので、本捏ねで冷たい水を入れて冷やしたかった場合など、とにかく調整という意味では少し不便に感じることがあると思います。
その部分をやや解決してくれるのが70%中種法で、残り30%の小麦粉を残してありますので、小麦粉自体を冷やしておいたり温めておいたり、水分も本捏ねで入れられますので、その水で温度調整なども行えるわけです。
また、イーストも追いイーストとして追加することで、発酵力もプラスすることが出来るのです。
70%中種法
(配合)(中種)(本捏ね)
強力粉 100% 70% 30%
砂糖 6% 6%
塩 2% 2%
イースト 1% 0.7% 0.3%
脱脂粉乳 3% 3%
バター 6% 6%
水 68% 48% 20%
この製法についてもう少し詳しく説明しておきますと、まず粉もの(脱脂粉乳や改良材など)は中種の方に入れてください。
油脂以外の原材料は発酵にも風味にも大きく影響がありますので、中種に入れるのが妥当と考えます。
改良材やモルト粉末などを入れる場合も、発酵に関わるものはなるべく中種に入れるのが良いでしょう。
ただし、絶対ではありませんし、本捏ねの方に入れたからと言って効果がないというわけではありません。
次にイーストですが、100%中種でも70%中種でも中種にすべて入れるという人と、分けていれるという人に分かれます。
これも明確な決まりがあるというようなものではなく、どこに重きを置くかという目的を持って行うならばどちらでもかまわないと思います。
中種にすべてを入れれば中種の発酵熟成はかなり進む反面、最終発酵やオーブンでの伸びがやや弱くなります。
他方分けて本捏ねにもイーストを入れると、その分中種の発酵は弱くなりますが、オーブンでの伸びが良くなります。
私は必ず分けて配合するようにしていますが、これも絶対というわけではありません。
それぞれ行ってみて、完成品の違いを見てみるのも楽しいかもしれませんよ。
ただし、糖分の多い生地の場合は必ず本捏ねにもイーストは必要です。
くわしくはこちらを参考にしてください。
70%中種法についてはこちら
砂糖を多く入れる場合の中種法はこちら
さて、中種法について解説してきましたが、きっと理解できない部分も多いかもしれませんので、いくつかの質問に答えていきたいと思います。
冷蔵庫で発酵させる方法は意外と多くの方が行っているとは思いますが、今回の中種法とは少し意味が違ってきます。
すべてを常温で行うことで短時間で十分な発酵を行うことになりますので、それが低温になるということはそれだけ管理が難しくなり、効果も違ったものになると思われます。
ただし、出来ないわけではありませんので、色々とお試しになって、酸っぱいパンにならないように注意しながら行うと良いと思います。
ということで、いつもの配合をこのように中種と本捏ねに分けることによって、日持ちするようになる、水分の蒸発が遅くなるということなので、結果しっとり感が長持ちするようになる、なかなかパサパサにならないという利点があるわけです。
いつもよりも中種に2時間も時間をかけることで、このような効果が生まれますので、時間ならあるという方はぜひこの方法でパンを作ってみてはいかがでしょうか。