パン作りは発酵が命!
こだわりの製法によってのみ深い味わいが得られる!
パン作りを仕事としている人の殆どはそう思っているはずです。
いや、仕事としていない人はもちろん、何よりもパンが好きというような方々もきっとそう思っていることでしょう。
美味しいパンという定義で目立つのは「天然酵母パン」とか「国産小麦」とか「安心安全な無添加パン」というような、いわゆる原材料のこだわりが語られることが多いような気がしますが、これらはなんとなく言葉にしやすい文言だからなのであって、それぞれのパン屋さんのいわゆる「作り方」と言える「製法」とか「技術力」が美味しさを醸し出しているのではないかということを買う側の人はよく知っています。
したがって、売れている、行列が出来るようなお店では、原材料のこだわりはもちろんのこと、技術力があって製法にもこだわりがあるに決まっていると思っていることでしょう。
つまり、わかりやすく言うと美味しいパンというのは時間をかけてじっくりと発酵させた、こだわり製法によって作られていると思っているはずです。
それはある意味その通りで、流石に行列ができるようなお店においては、こだわりの製法が行われていることが多いといえます。
しかし売れているお店のすべてがそうかといいますと、けしてそうではありません。
そうでもない、つまりこだわりの「製法」ではないのにも関わらず、売れているお店もたくさんあるのです。
そうです、こだわりの製法と売上というのは必ずしも比例しているというわけではないのですね。
冷凍生地を使ったパン屋さんがなぜ売れるのか?
安心安全とか無添加などの言葉を気にする人が多い反面、「美味しければそんなの気にしない」という方も多いのも事実のようです。
焼き立てパン屋さんというのは、「大手に比べればほぼ無添加で安心なはず」と勝手に解釈されている部分も多いと思うのですが、そんな焼き立てパン屋さんでも実は大手の冷凍生地を仕入れて使っているお店は実に多いのです。
一部だけ仕入れて使っているというお店から、ほとんどを大手から仕入れて使っているというお店までを入れると、それはそれはもう数え切れないほどのパン屋さんが大手の冷凍生地を使っていたりしています。
使っていたりなんて言うと、まるで悪いことのように聞こえがちですが、それらをうまく活用することで、短時間の営業時間内に効率よく品揃えをすることができたり、焼き回数を増やすことが出来たり、もっと言うと解凍するだけで品揃えできるパンまでありますので、経営的にはこれ以上の助っ人はいないとも言える強い味方なのです。
冷凍生地で作ったパンが美味しいのか美味しくないのかは意見が分かれるところではありますが、結論から言えば多くの人がすでに冷凍生地を使ったパンを買っている、そしてなんの迷いもなく美味しいと思って食べていることと思います。
冷凍技術がとても進んでいることは誰でもが実感していることだと思いますが、これらの冷凍パン生地の他にも、成形までも行ってあるもの(あんぱんやメロンパンなど)とかホイロ(最終発酵)まで済んでいて、凍ったままを冷凍庫から出して焼くだけというもの(ホイロ後冷凍)、そして焼成まで済んでいて解凍して食べるだけのもの(焼成冷凍)まで存在していて、それらを活用すると小型のオーブンだけあればパン屋が開けるようになっているのです。
発酵時間の短いパンの代表とは
もともと捏ねてからほとんど発酵時間を取らないパンというものがありますよね。
代表的なものとしてはデニッシュとかベーグル、そしてライ麦パンなどもあまり発酵時間をとりません。
この場合の発酵時間というのは捏ねて次の作業に移る前の時間(一次発酵とも言われる)のことであって、その後に冷蔵されたり冷凍されたり、そして焼成する前の最終発酵と言うのは当然行われることになります。
これらのパンがなぜ第一発酵をあまり取らないのかといいますと、フワフワさせたくないから、締まった内層にしたいから、伸ばす作業では膨らみが邪魔になるから・・・などなど、そもそも伝統的に目的を持って発酵時間をあまり取らない製法とか手法が使われているわけですが、これらのパンはどれも人気が高いですよね。
つまり、発酵時間が短い、あるいは無いパンでも美味しいということはすでに認知されていることになります。
そう考えますと、長時間発酵とか長時間熟成だけが必ずしもパンの味を決めるのだと言うことではないような気もしますね。
それぞれの原材料のもつ旨味とか風味とかコクなどが相まって、それが総合的にパンの美味しさにかかわってくるものなのかもしれませんね。
ということで結論は・・・
パンにはそれぞれそのパンに見合った作り方(製法)というものがあり、それを大きく逸脱した作り方をすれば、結果として全く別なパンになってしまうことだけは確かでしょう。
ただ、それが正しいのか間違っているのかは食べる人が決める問題なのであり、このように作らなければパンではないというようなものではないと思います。
多くの先人達が作り上げてきた伝統を踏まえながらも、「もっと何かがあるはず・・・」と常に探究心を燃やしていくことは大いに必要なことだと私は思います。
そして現実問題として、手間暇をかけたら必ず評価されるとは限らず、「お店が可愛いから」とか、「安くて大きいから」とか、「テレビで紹介されていたから」という理由で売れているお店もたくさんあるのです。
製法というのはマーケティング手法ではありませんから、どんなにこだわってもそれが買う人に響かなければ売上には繋がりません。
作り手としての自分の思いを、どのようにしてお客様に伝えていけるかがポイントになるのだと思います。