このカテゴリでは、いつもこのブログを応援してくださっているパン教室主催者の方々、そしてホームベーキングを楽しんでいる方々、さらにはお店を持つことを夢に、パンの製造販売を行っているホームベーキング+アルファーの方々にお伝えしたいことを書いていきたいと思います。
パン作りに対する質問や疑問、そして相談をしてくださる方々の多くが口を揃えたように言うセリフがあります。
それは、自分のパンに納得できない・・・
というものです。
だからこそ相談してくださるのだと思のですが、そうは言ってもある意味謙遜もあるでしょうし、今のままで納得してはいけないのだという、むしろ建設的な考え方での ”納得できていない” という意味なのかもしれません。
しかし中には、本当に自らの実力のなさを嘆いている人もおられるようでしたが、かと言って簡単にあきらめる訳にも投げ出すわけにもいかないしということで、相談を受けることもあるのが現実です。
そのような方のパンを試食させていただくと、壊滅的にまずいと感じることがたまにあります。
そんな時には、もちろん正直にどうまずいのかをお伝えすることになる訳ですが、それはそれは落ち込まれてしまいます。
「やっぱりそうでしたか」「でも改めて言われるととてもショックですね」
私としても、そう言われると誠に申し訳ない気持ちになってしまうのですが、だからと言ってこれでお互いに落ち込んでいてどうなるものでもありませんよね。
まずいの原因が分かったということは、そこを修正していけばよいと言うことなのですから。
たいていの場合は、簡単に言うと経験不足からくる勘違いでまずいパンを作ってしまっていることが多いのです。
ごくこく普通に捏ねて発酵させて焼けば、それなりに美味しいパンにはなるはずなのです。
しかし、ちょっとした勘違いとか思い違いでいらぬ修正を行ってしまう、あるいは難しい製法に走ってしまう、あるいはいたずらに配合をいじってしまうなどの行為によって、体験したことがない分野に足を踏み入れてしまい、自爆してしまうのだと思うのです。
また、ちょっと不安になるととりあえずネットで検索し、そこに書かれていることを未経験であり未開拓なのにもかかわらずにチャレンジしてしまう。
そんなことを繰り返していくうちに、本来の自分らしさとかパン作りの目的みたいなものが見えなくなってくる・・・
ネットに上がっているパンの画像や、色々なお店のFacebookをチェックしては、自分のパンと比べてしまい、根拠なき妄想を描いてしまう。
まさに今の時代だからこその、余計な不安を抱えてしまうのだと思うのです。
そこで、そんな負のループにはまってしまっているかもしれない・・・とお考えの方には、どうかこんな方法を一度試してみてほしいと思います。
自分の作り方を見直してみよう・・・その1
インスタントイーストや生イーストなど、市販のイースト以外の酵母の使用を中止してみましょう。
販売されている天然酵母の類、自家製酵母の類、ルバンとか発酵種とかの類などなど、それらすべての使用をいったんやめて、イーストのみでパンを作ってみましょう。
イースト以外の酵母や種類を使用してしまうと、複合的な風味が出過ぎてしまって、おまけにペーハーなども違ってきてしまいますから、発酵の見極めがとても難しくなってしまいます。
ペーハーがどれくらい酸性に近ずくかによって、風味がかなり変わってきますし、発酵時間やガスの含みをかなり違ってきてしまいます。
すると、昨日はうまくいったのに今日は何か元気がない・・・みたいなことがしばしば起きてしまう可能性が高まります。
イーストの量やパン生地の捏ね上げ温度、そして発酵時間によってどのように味や風味が変化していくのかをじっくり試しながら、イーストと小麦粉との相性を実感してほしいと思います。
パンの美味しさの基本となる部分を実感できないうちに、様々な情報に惑わされて様々な酵母に手を出すことによって、製パンの根幹が見えずにいる方が非常に多いのではないかと感じてなりません。
出来ることなら小麦粉をしょっちゅう変えることも一旦中止してみましょう。
小麦粉が持つ個性と言うのは、味もさることながら水の吸い方、粘りや伸び、弾力やガスの含み方など、それぞれに個性があります。
その個性をつかみきれないうちにブレンドに走ってしまったりすると、もう個性をもブレンドされてしまいますから、要するに良く分からなくなってしまうのです。
差別化とか安全とかを考える前に、パンの美味しさとは何か・・・を実感してほしいと思います。
自分の作り方を見直してみよう・・・その2
製法はストレート法(ディレクト法)のみにしてみましょう。
ストレート法というのは、もちろんご存知のことと思いますが、冷蔵したり冷凍したり、種を作ったりなどということを行わずに、その日に捏ねてその日に焼くことを言いますが、この製法で作られたパンをダサいと考える方が意外といらっしゃいます。
「何か一工夫を加えてオリジナルを・・・」そう考える気持ちはよくわかるのですが、そもそもストレート法のパンの美味しさを十分確認できていますでしょうか?
やたらと発酵時間を長くしたり、低温発酵に走ってしまうと、素材の旨味である小麦の風味よりも発酵臭が勝ることになり、粉本来の旨味が出ない場合がよくあります。
また、言いにくいことですが、特に冷蔵法の場合は雑菌の繁殖によって本来の風味を奪われているケースも多々あるのです。
まずは、ミキシングの度合いによってパンの風味や、特に食感がどう変わるのか、小麦粉が変わるとどう味が変わってくるのかをダイレクトに感じ取れるストレート法をしっかりとマスターしてほしいと思います。
生地の感触や、その生地に合った成形の仕方を手がつかめるようになるまでは、いたずらに製法を変えたりせず、十分対応できる自信がついたら、また色々とお試しになると良いでしょう。
どうしてこうなってしまうのでしょうかと言うご質問と同時に画像を送ってもらうことが多いのですが、端的に原因を求められても、製法や酵母が違えば、その都度それぞれに色々な注意点がありますので、解決までにはそれはそれは長いやり取りが必要となります。
長いやり取りが嫌で言っているのではなく、基本がしっかりと出来てさえいれば、ポイントだけをお話ししただけで解決に導かれることがほとんどなのです。
ですので、様々な製法を行いたい気持ちをぐっとこらえて、まずは自分自身の思い描くパンが安定的に作れるように頑張っていただきたいと思います。
自分の作り方を見直してみよう・・・その3
映えはどうでもよいことを知りましょう
カッコイイ専門店のようなパンを作りたい・・・
有名店のような美しいクープ、色鮮やかなデニッシュが作りたい・・・
気持ちはよくわかります。
しかしそれは、製造販売を行っている方は自分や自分のチームの作ったパンが20万円以上売れるようになってからチャレンジしても遅くはありません。
一日20万円の売り上げが実現できるまでは、どうしたら20万円売れるようになるのかだけに集中するべきです。
パン教室の運営では、安定的に予約が入る状況を実現できるまでは、生徒さんが何を望んでいるかに集中するべきです。
つまり、見た目に美しいパンを目指しても、そしてそれを作れたとしても、間違いなく売れませんし、単なる自己満足以外のなにものでもありません。
今現在自分が作っているパンの中で一番人気があるパンが何かをよ~く見て下さい。
生徒さんが教室で習ったパンの中で、何を家庭で実践しているかをよ~く聞いてみて下さい。
それがお客様があなたに求めているパンなのですから、その分野のアイテムを広げていくべきです。
そこにカッコイイハード系やデニッシュが登場しても、誰も買いません。
「いや、客層を広げようと考えて・・・」
「パンのイメージをもう少しだけ高級志向にしておかないと・・・」
「斬新さがないと生徒さんが呼べないので・・・」
そう思うのもけして間違いではないでしょう。
確かにパン教室であれば、たくさんの種類を作ることは楽しみにもつながるでしょうし、他教室との差別化にもなることもあるかもしれません。
しかし、種類にもアイデアにも上には上が必ずいます。
パン教室は戦いの場ではなく憩いの場であってほしいと思いますので、やたらと裾野を広げるのはかえってマイナスなのではと思えてなりません。
それよりも、心から自分が納得できるスペシャリテを作り続けることの方が価値があると思うのです。
+アルファーで販売を行っている方々は特にそうですが、人気のあるパンを更にグレードアップしていくような工夫は大賛成ですが、流行りに手を出したり、自分の好みをアピールするような手法はほぼ受け入れられることはないと知りましょう。
一時の人気や流行りに目が行ってしまうと、どうしても足元をすくわれがちですが、それはテレビやネットの見過ぎです。
一番気にしなければならない情報は、あなたのパンを好んでくれている人の情報ではないでしょうか。
お店でも販売店でも、どのパンに人気が集まるかは地域差があります。
その地域差をもっと掘り下げてみると、食文化や家族構成、どのような職場が多いか、小・中・高・大学の数、畑が多いか、海に近いか、山ばかりか、駅は近いか、バスは走っているか、高速のインターは近いか、モールは近いか、コンビニの数は・・・といった具合に、地域が変われば売れるパンは全く違ってきますし、なぜこのパンが人気なのかの理由も、お客様を観察して情報を得るしかないのです。
つまり、全国ネットの情報、さらには最新のトレンド情報の中には、自分の地域の正しい情報はほぼ含まれてはいないと言うことなのです。
最新情報を見るなと言っている訳ではないのです。
そんな情報は「へ~そうなんだ」程度に見ておいて、話題の種にしていれば良いのです。
私たちは、心から美味しいと思える、目の前にあるパンの改善だけに心を傾けましょう。
なぜ美味しいのか、どこがどう美味しいのか、どうしてこのパンが人気なのか、その答えがガッチリ理解できれば、自分の目指すべき製パンの方向も、どこをどう改善していくべきなのかも必ず見えてくると思います。
自分らしさというのは人それぞれ違います。
自分が心から納得できるパンを作れるのは、自分だけなのです。
今現在まずいパンしか作れてなくても、あきらめさえしなければそう難しい道ではありません。
いつでも初心、いつでも基本、よく言われることですが、それが一番大切ではないかと思います。
つまずいたら、いつでも相談してほしいと思います。
戦友からこころをこめて・・・