こちらは1.5斤型で焼いた食パンです。
ホワイトラインがとても美しく、そしてキメ細かさが伝わってくるようです。
大手の食パンと言えば、圧倒的に3斤型で焼いた大きなものが定番のようですが、焼き立てパン屋さんでは時代と共に小さくなってきている気がします。
特に流行りの食パン専門店などでは、この形が主流のようですよね。
ご家庭でも1.5斤か1斤、または1斤の小ぶりのものやパウンド型で焼かれている方も多いのではないでしょうか。
どんな型で焼くかによって、向き不向きのレシピと言うものがあるのか?
蓋をして焼くのか蓋をしないで焼くのか、なにか決まりのようなものがあるのでしょうか?
と言うような、漠然と蓋をして焼いているけれども、このレシピのまま蓋をしないで焼いたらどうなるのか・・・?? というような疑問をお持ちの方、意外と多いのではないでしょうか?
皆様から良くいただく質問の中に、このような内容が多くあります。
★蓋をして焼くとレシピにありますが、蓋をしなかったらどうなるのでしょう?
★蓋をする食パンと蓋を付けない食パンでは、生地重量は変えるべきなのでしょうか?
★蓋をした食パンにスチームをかけるのは意味ないでしょうか?
★食パンを焼くときに蓋をするのは、形を四角くしたいからと言う目的だからですか?
★食パンに蓋をしないで焼いたら上が焦げてしまいました。やはり蓋をするべき食パンと蓋をしない山形食パンではレシピを変えなければいけないのでしょうか?
★オーブンから出したときに蓋が取れなかったので、しばらくそのままにしたら取れたのですが、パンが腰折れしてしまいました。
★食パンの上部が丸くなって四角くならないのは、最終発酵が足りないからですか?
★スライスしてみると、食パンの上部に穴あきが多いことがありますが、成形の仕方が悪いからでしょうか?
★いつも型の四隅に生地がくっついてしまい型から出すことだ出来ません。油の塗りが少ないと言うことなのでしょうか?
と言うような内容が多いのですが(その他にも関連した内容がたくさん)食パンをご家庭で焼くと言うのは正直やや難しいです。
全自動のパン焼き機程度の完成度ならそう難しいことではありませんが、ご家庭で手捏ねでパンを焼くと言う方は、かなりのレベルを狙っていらっしゃいますよね (笑)
美しい四角の食パン、そして均整のとれた山形食パンでないと納得できないと言う方が非常に多い・・・
ということで、食パン、そしてその他の型を使って焼くパンについて、知っておいていただきたい注意点やコツをまとめてみたいと思います。
蓋をする四角い食パンの注意点
四角い食パン(プルマンブレッド)イコール日本の食パンと言っても過言ではないでしょう。
色々大きさの違いはあるにしても、圧倒的に四角い食パンが多いのは一体なぜなのでしょうね。
その歴史はともかくとして、四角く焼くことで内層の詰まった、と言う表現はちょっと違うかな、キメ細かいスポンジのような内層と、四面をみみで囲まれていることによって白くてキラキラした美しい内層のパンになり、それが日本人好みなのだと言うことだけは確かでしょうね。
蓋をして焼くと言うことは、本来ならもっと膨らめるのに無理やり抑え込んで焼くことになりますよね。
ちょっとかわいそうな気もしますが、ある意味贅沢でもありますね。
いかなる生地のレシピであっても、蓋をして焼けば四角くなる訳ですが、実際にはそう簡単にはいかないのがパンの難しいところだと言えるでしょう。
それは上記の質問にもあるように、蓋まで届かないで丸っこくなってしまうことがあったり、上部に空洞ができてしまったり、耳がガサガサになってしまったりと、なにかと理想通りにはいかないからですね。
蓋さえすれば四角く焼ける・・・と言う訳ではない食パンですが、一般的に多いお悩みからそのあたりの解決法を探っていきましょう。
キレイな四角にならないのはどうして??
食パン生地が型の中で元気に膨らんでいくためには、膨らむための力、つまり発酵力が必要です。
パン生地が元気に膨らむためには、しなやかで、どこまで膨らんでも割れることのない風船集団が必要となります。
そして何より、その風船を膨らませ続けてくれるイースト菌が必要です。
どちらも配合の中に入ってはいる訳ですが、その元気でしなやかな風船というのは、程よい捏ねの作業と、風船を割らずに増やしていくような取り扱いが出来た場合にのみ得られるわけです。
また、元気な生地が出来たとしても、イーストが発酵しやすい温度に達していないとガス発生が弱くなり、風船を元気に膨らませる力が出せません。
ということで、しっかり捏ねて風船をたくさん作り、かつイーストがガスをたくさん放出してくれるような温度帯で焼きまでもっていくことが大切になります。
・・・ということは、型の中で元気に膨らんでいけない生地があるとしたら、それは風船の数が少ないか、あるいはイーストが元気にガスを出すことが出来ないような温度帯になっていると言うことになる訳です。
何度で何分・・・というようにレシピには書かれているはずですが、パンを作る環境や器具、そして皆さんの手の温度や取り扱い方は実に様々なはずです。
時間通り、レシピ通りやったとしても、結果として元気に膨らめていないということが事実ですので、元気に膨らんできている生地であるかどうか、温度は適正なのかどうかを確認する必要があるわけです。
パンの取り扱いというのは技術ですので、上手下手が大きく作用することは間違いないのですが、それでもよほどのことがない限りは、しっかり捏ねられていて、温度が規定通りの26~28℃位で推移してさえいれば、蓋に届かないようなパンにはならないはずなのです。とは言え捏ねすぎていてもグルテンが弱くなってしまいますので、あくまで丁度良い具合をつかむしかないのですが・・・
では仮に生地はそこそこ滑らかに、しっかりと膨らむ生地になっていたとした場合、温度が高すぎた場合はどうなるかと言いますと、その場合もすでにオーブンに行きつくまでの間に発酵力を使い果たしてしまっていて、オーブンで伸びきれないと言う現象が起こります。
ですので、捏ね具合も生地の温度も丁度良い状態でないとキレイな四角にはならないということなのです。
パンの内層に大きな穴が開いてしまうのはなぜ?
この現象には大きく分けて二通りの原因があります。
それは、生地にダメージがある場合と、生地に元気がない場合の二通りです。
ダメージがあるというのは、成形や取り扱いが悪かったということで、グルテンが切れてしまい風船がたくさん割れてしまった状態ですので、表面の皮だけが上部に到達できたのに、そこに生地が付いていけなかった状態になります。
温度が高くても低くても、結局風船をたくさん割ってしまってはきれいに伸びることは出来ない訳ですね。
しかし、これもよほどのことがない限りそこまで割ってしまうような扱いはしないと思います。
ということは、風船が割れやすい状態になっていたからだと考えるのが正解で、生地が硬すぎたとか温度が高すぎたとかイーストが多すぎたとか発酵時間を過ぎてしまったなどのいわゆる過発酵状態であった為だと考えられます。
逆に、生地に元気がない場合というのは、生地の温度や室温が低かった場合、あるいは作業台が冷たすぎた場合、あるいは捏ねが足りなかった場合などで、発酵時間を延ばしてみるとか、温かい場所で発酵を取るとか、少し力を入れて成形するなどの処置が出来ていない場合、最後まで元気のないままオーブンに入ることになり、やはり伸びきれないことがその原因なのです。
均一の内層になっていないのはなぜ?
この場合は、概ね次のことが考えられます。
特に多い要因は、手粉の使い過ぎ、生地の乾燥です。
柔らかめの生地にすることは非常に良いことなのですが、生地の扱いに慣れていないと手にくっつく為にどうしても多めに手粉を使用すると思います。
また、表面が乾いてしまった生地が中に巻かれていったりすることで、おかしな地層のような模様が出来てしまうことがあります。
生地の温度が高く、そして硬い場合に乾燥しやすくなりますので、「やばい・・・温度が上がってしまった」と感じたら、早い段階で冷蔵庫へ入れるなどして生地の温度を下げれば大丈夫です。
また、何をするにしてもいちいち生地の上にビニールをかぶせるようにして、絶対に表面を乾かさないようにしておくことが大切です。
あまりない事例ではありますが、ボールのふちに残って乾燥した生地を混ぜてしまったりしてもおなしな内層になりますので、捏ねから成形終了までの段階で乾燥した生地を混入させないことが大切です。
こちらの画像も下層・中層・上層のそれぞれで違った表情になっていますよね。
よく見るとところどころに黄色い部分があることも確認できます。
このような内層のパンはご家庭では非常に多い現象であると思います。
直接の原因はレシピによって変わってくるわけですが、この画像の場合は明らかに生地が冷えてしまって元気がない状態だと言えます。
さらに成形も適切には行えていないようです。
特に上部に空洞が出来ると言うことは、生地に元気がない、ハリがないことになりますので、捏ね上げたときの温度だけではなく、分割の後やベンチタイム、そして成形の後にも温度を計ってみることをお勧めします。
またこれもあまり多い事例ではないかもしれませんが、第一発酵・ベンチタイム・最終発酵などを行う場所の温度・湿度が高すぎてもこうなります。
とくに生地表面が濡れるような湿度だけは厳禁です。
あまりにも乾燥対策に気を使いすぎて、常時高加湿の場所へ生地を入れる方がいますが、そうしますとやはり焼成前にイースト菌のガス発生力が奪われてしまい、ふ抜けた生地になってしまうのです。
濡らさず乾かさず・・・簡単そうで意外と難しい、しかし最大のコツであることだけは間違いないのです。
焼いた後腰折れしてしまうのはなぜ?
食パンと言うのは、その体重をみみで支えています。
しかし、その耳の部分の焼きが弱いと支えきれない訳です。
かと言ってしっかり焼きすぎると今度は耳が厚くなりパンはパサついてしまいますよね。
ですからその焼き加減が難しくなるのですが、ある程度慣れていただくしかないでしょうね。
ただし、焼くと言ってもやはりスポーツマンと一緒で、身体全体を支えるには下半身がしっかりしていないといけません。
ですので、下火が大切になる訳ですが、ご家庭ではそのような機能がありませんよね。
ということは、オーブンの大きさに対してあまりにも大きな型で焼いたり、高さのある型で焼いたりすると、どうしても折れやすくなってしまいます。
この画像のように、どうしても焼きが弱いと折れてしまいますので、どんな型を使うか、何分焼くかは各ご家庭で試行錯誤していただくしかありませんが、小さめの型でうまくいってから徐々に大きくしていくようにするとコツがつかめると思います。
また、最近はなにかと専門店の食パンを真似して柔らかい食パンを作ろうとする方が多いようですが、生地が柔らかいイコール折れやすいと言うことだけは覚悟しておかなければなりません。
油脂が多い、生クリームが多い、混ぜ物が多い、水が多い、蛋白の少ない国産小麦の場合も同じで、せっかく柔らかくなるためのレシピなのに、しっかりと焼かなければいけないというような矛盾が生じないように、型は小さめ、あるいは高さのないものを選択されることをお勧めします。
また、小物の菓子パンなどには全く関係ない話ですが、型を使って焼いた大きな食パンというのは、全体的に気泡が上へ上へと立体的な形になって焼き上がります。
するとどうしても横からの力が弱く、重力に耐えることが難しくなってしまいます。
そこで、オーブンから出す際に一度台の上に型のまま落としてショックを与えることで、内層の気泡がぐっと締まり、みみの部分の外皮もやや強くなります。
パン屋さんでは必ずこの作業を行うのですが、立体的な型で焼いたパンに対しては必ず行うようにすると良いでしょう。
ただし、あくまで焼き立てのパンですので、力を込めて台に叩きつけたりしたら潰れてしまいます。
オーブンからそっと出したら、台の上から型一つ分くらいの高さから落とすだけで大丈夫です。
ということでいかがでしたでしょうか?
これ以外のことでお悩みでしたら、お問い合わせフォームよりご質問くださいね。
次回は蓋をしない食パンについて解説していきたいと思います。