やっぱり手作りパンが好き

ご家庭でのパン作りをとことん応援します。長年のベーカリー経験とパン教室経験にもとづく、超解りやすい解説を心がけています。

ハリのある成形、のち火力、のちスチームでバッチリ!

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発酵種だけで作ったバタール

 

イーストを添加せず、発酵種の力だけで焼いたフランスパンの画像ですが、独特の内層と、赤みがかった焼き色が素敵ですよね。

クープはもちろんきれいに割れていますが、イーストのパンとはやはり表情が違います。

このようなイーストを入れないで種だけで膨らませるパン、あるいは天然酵母の中でも自家製の果実種や小麦種などで作るパンと言うのは、どうしてもオーブンに入れた時に膨らんでいく力、伸びていく力の瞬発力がイーストと比べると弱くなります。

ですので、そのようなパン生地でクープをきれいに開かせるには、ある程度のテクニックが必要となるのです。

今回はそのテクニックについて説明していきたいと思います。

 

前回、クープに悩むパン屋さんに訪問した際のクープ成功率は100%だとお伝えしました。

これは、自慢でも何でもなくて、そうなんだ~と一旦理解してしまえば難しいことではないのです。

悩まれている皆さんと言うのは、いかにも割れないような生地を、割れないであろう状態のオーブンの中に、割れないようなスチームをかけて焼いていることがほとんどでした。

つまり、割れる原理を理解できていなかったわけです。

そこで、一緒に説明しながら行うと、あっという間にきれいに開くので驚かれるのですね。

なぜか真逆の方向へと進んでしまっている傾向があり、残念ながらいつまでたっても成功することが出来ないでいるようなのでした。

では、いったい何を理解していれば真逆の方向へ進むことを止められるのかと言いますと、

 

1、配合と生地の状態を把握する。

2、ハリのある成形を行う。

3、オーブンの設定を生地に合わせる。

4、生地に合わせたスチームを使う。

 

以上の4つを理解すればクープはもう完璧なのです。

若干パン屋さん寄りの表現になってしまいましたので、ご家庭用語に訳しますと

 

1、しっかりと膨らんでくる生地であるかどうかを確認しましょう。

2、ガス抜きをしっかりと行って、表面がプリプリとした感じになる成形をしましょう。

3、生地の状態に合わせて温度を変えましょう。

4、生地の状態に合わせた蒸気の入れ方を考えましょう。

 

こんな感じでしょうか。

では一つづつ説明していきましょう。

 

1、しっかりと膨らんでくる生地ですか?

 

色々な配合、レシピ、そして小麦粉をお使いのことと思います。

細かいことを言えば、それぞれに違ったコツがある訳ですが、そこまで細かく考えなくても、要するに発酵終了時や成形終了時、そして最終発酵の時に生地がしっかりと膨らんでくるパワーを感じるような状態であるかどうかをまずは見てほしいのです。

このときに、なかなか膨らんでこないとか、横に広がる感じで上に膨らんでこないとか、弾力が弱い気がするとか、成形はうまくできたはずだけど、生地がなよっとしているとか、成形した生地がシートにくっついてしまうとか、とにかく元気です!!とまではいかないような状態であった場合、その時点でクープが開く率は大幅に減少してしまいます。

なぜそうなるのかはケースバイケースですが、イーストを減らして発酵時間を長くしようとしてみたとか、部屋が寒かったとか、小麦粉が古かったとか、自家製酵母を使っているとか、捏ねが弱かったりパンチが弱かったりしたとか、水を多く入れいるようにしているとか、冷蔵庫で発酵させているとか、とにかく何かしらの原因で生地に元気がないわけです。

生地が元気でない理由を、生地を触っただけで判断できる人ならそもそもクープで悩んだりはしません。

その原因が解らないような場合は、とりあえず標準的なレシピに戻してみて、まずはクープが開く生地の感触というものを体で覚えてほしいのです。

しっかりと弾力のある生地であるかどうかと言うことが、まずは最低条件となるのです。

 

2、ハリのある成形が出来ていますか。

 

成形と言うのは、ずばり技術ですので確かに難しいでしょう。

しかし、あくまでポイントは一つです。

それは表面にハリがあるかどうかなのです。

ハリという表現で理解してもらえるかどうかですが、いわゆる全体的にガス抜きが出来ているかとか、畳み方がどうであるとか、きじが硬いか柔らかいかなどではなく、クープを入れるまさにその生地の表面だけでよいので、ピンと張りつめたような状態にしてほしいのです。

こちらの画像をよく見て下さい。

 

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バタールの成形

色々な成形方法があり、上から畳む人、下から畳む人、巻いていく人など様々でしょうが、ポイントはこの最後の閉じなのです。

今まさに閉じていますが、右端の閉じ終えている生地の状態をよく見て下さい。

とじ目がどこなのかすら解らないほど立体的になっているのが解ると思います。

表現だけでは伝わらないでしょうし、実際に一緒に行ってもすぐに出来るものではないかもしれません。

ただ、この部分と同じように閉じれるようにしっかりとイメージの中に入れてほしいのです。

閉じ終えた、つまり成形が終わった生地がまるで麺棒のように立体的な丸になっていればOKです。

 

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バタール延ばし

 

畳み終わった生地を、さらに理想の長さまで伸ばすわけですが、これはかなりの高等技術になります。

ですので、ご家庭で長さを求めるのはやめて、畳んだ時の生地のハリをしっかり残してほしいのです。

生地がべた付いていたり、手や台にくっついているような様子はありませんよね。

しっかりと膨らみが感じ取れる生地を、このようにハリのある成形で終えることが出来れば、もう成功は確実でしょう。

逆に、手にくっつくし台にもくっつく、畳んでも畳んでもコシが入らない、ブカブカで気泡が多い、生地が水っぽい、生地がみょうに乾いているなどなど、最適ではない状態だと感じたら、やはりレシピから見直して、クープがきれいに開くイメージが出来てからアレンジに取り組んでほしいと思います。

 

オーブンの設定温度を生地に合わせましょう。

 

残念ながら、このオーブン設定に関しては、ご使用のメーカーなどによって全く違ってきますので、ここだけはパン屋モードで説明させていただきます。

がしかし理屈は同じですから、ご家庭でも取り組んでいただけると思います。

クープがうまく行かないパン屋さんというのは、そもそもハード系のパンを品揃えしていません。

色々なハード系のパンを作ってさえいれば、どこかで突破口が見つかると言うものですが、残念ながら菓子パン中心の品揃えなのでした。

そしてそんな関係上なのか、オーブンの設定は上火が強く下火が弱いことがほとんどでした。

なぜそうなのかと尋ねますと、「下火を上げると下が焦げてしまうから」と言う返答になる訳ですが、そもそもそこが間違いのもとなのです。

菓子パンのように、平べったくて小さくて、砂糖が多くて油も多い生地と言うのは、あっという間に火が入りますから、ある意味どのような温度で焼いてもうまく焼けるのです。

それは、イーストも多いはずですからまずは膨らみが早いのに対して、油脂が潤滑油の役割を果たしてさらに伸びが加速します。

伸びが良くてイーストの量も多いと言うことで、パンの中はあっという間に大きな風船の塊になり、風船の中は空気ですからあっというまに火が入ります。

砂糖が多いので比較的短時間で表面も焼けてしまい。上火とか下火という調整をほとんど必要としないのです。

しかしハード系のパンと言うのは、潤滑油も入っていませんしイーストはそもそも少ないし、おまけに色付きの元となる砂糖も入っていない為に、菓子パンと同じように焼いてしまったらきれいに伸びきれないのです。

ですので、極めて下火を強くして、潤滑油の力ではなく火力によって上に上にと膨らませてあげる必要があるのです。

菓子パンのような砂糖の多い、しかも平べったいパンなら接地面積も多いので焦げてしまうかもしれませんが、バタールのようなハード系パンはそう簡単には焦げません。

この点を経験上体感していないパン屋さんと言うのは、下火を上げることを非常に怖がっているのです。

この点ご家庭のオーブンと言うのは上下の温度設定はほとんどできませんよね。

ですので、上の段に入れてみたり下の段に入れてみたりして、どっちがクープの開きが良いかをつかんでほしいと思います。

また、余熱の際に天板を一緒に熱くしておくことも良い手段だと思います。

基本的に生地が元気な場合は、オーブンの中で伸びる力も強いと言うことになります。

ということは、火力を強めにしておかないと、いつまでたっても色が付いてきませんし、焼けるのに時間がかかってしまいます。

逆に、生地に今一元気がないと感じた場合は、ある程度火力を弱めて下火でゆっくりあおってあげないと膨らんでいきません。

ナイフを入れた場所が自然と閉じてしまうような生地の場合は、なおさら火力は弱めに設定しておきましょう。

 

4、蒸気の役割を理解しておきましょう。

 

最後の重要ポイントはスチームです。

スチームの量と質によって、ハード系パンの美しさは決まってしまうと言っても過言ではありません。

潤滑油が入っていないパン生地と言うのは、オーブンの中に入るとまずは表面がすぐに皮ばってしまいます。

イーストの量が多い菓子パンとは違い、一度皮ばってしまった表皮を突き破っていくほどの膨らむ力がない為に、すぐに周りから焼けていってしまうのです。

すると、ツンツルテンののっぺらぼうなパンになってしまいます。

しかし、そこにスチームが入ることによって、生地の表面の温度が爆発的に上がり、しかも熱くなった表皮は糊のような粘った状態になり、なかなか固まりません。

その間に徐々に膨らんでいき、表面も徐々に乾燥して焼けていくのです。

つまり、フランスパンにおけるスチームと言うのは、菓子パンなどの油脂と同じように生地表面を滑らかにして膨らみやすい状態にしてくれる訳です。

このようにして、伸びようとする生地にナイフが入り、そこに蒸気が入ることによって表面が滑らかになり、徐々に膨らみながらナイフを入れた部分が裂けていき、やがて乾燥してクープとしての形になると言う訳なのです。

がしかし、問題はその質と量なのですが、質と言うのは細かい霧状かどうかということで、業務用のオーブンであっても最悪水を手でまいたかの如く、全く霧状ではない水が出てくるオーブンもあります。(今の新品ならほぼないですが)

こうなりますと、どうしても滑らかに割れていくと言う訳にはいかずに、割れたり割れなかったりと場所によって違いが出てしまうのです。

そんなある意味最悪なスチームのオーブンでは、スチームをはじめに入れておいて、庫内が少し落ち着いたらパンを入れるようにすると意外ときれいにクープが割れるようになります。

状態にもよりますが、ある程度何度かカラふかししておいて、水っぽいものが出なくなってから使用すると言う場合もあります。

最悪の場合は、ご家庭と同じように天板などに熱湯を入れてパンと一緒に焼く方が良い場合もあります。

ご家庭では天板をあらかじめ熱しておいて、パンを入れた後に熱湯を注ぐと言う人もいれば、小石を敷き詰めてそこに熱湯を振り入れると言う人もいるでしょう。

小石に熱湯の方が、キリが細かくなりますから、どんな生地でもクープが開きやすくなるでしょう。

どのくらいの時間、どの位の量を入れるか、そして何分経過したらその熱湯を出すかによって焼け方もクープの開き方も違ってくるわけですが、クープの開き具合と言うのはパンを入れてから5分以内で決まってしまいますので、焼成時間の半分くらいになったら出した方がパリッと焼けるでしょう。

スチームの量が多いと、パンの表面がテカテカに光ってクープが割れません。

また、量が少ないと艶がなく、クープが荒っぽく開きます。(開くと言うよりも裂ける感じになる) 丁度よければきれいな艶と開きが約束されるのです。

 

ということで、まとめるとこんな感じになります。

 

ここがポイント

ハリと膨らみのある生地なら、焼成温度は下火強めで温度高め、そしてスチームは多めでバッチリ。

膨らみの弱い、べたつくような生地なら、焼成温度は下火超強めで温度低め、そしてスチームは少なめでバッチリ。

 

最後にクープのバランスについて

 

きれいに割れている部分と割れない部分が出来てしまう・・・そんなお悩みも数々頂きますが、それはズバリ成形のバラつき以外の何物でもありません。

ご家庭ではスチーム機能、あるいはスチームがどのように庫内を循環するかによって、焼け方が違ってくるのはある意味仕方がありません。

業務用オーブンでも、庫内温度のバラつきは仕方がないと言うものもあります。

オーブンと言う庫内で焼くものである以上、その性能にゆだねる以外にないというのが結論でしょう。

フランスパン専用窯というとても高額なオーブンがあるのですが、それはそれは見事にきれいに焼けます。

ある意味誰が焼いてもきれいに焼けます(汗)

お金さえあればそんな恵まれた環境でクープに悩むことなくパンを焼くことが出来る訳ですが、そこで働いていた人が普通のオーブンしかないパン屋さんに就職したら、恐らくクープに悩むことになることでしょう。

ですので、知識も技術も設備に恵まれていない人の方が学べると言うことにもなる訳です。

ですので、へこまずにすべてが経験なのだと思って、大いに失敗し大いに悩みましょう。

また、良くある質問のクープナイフを入れる方向とか深さとか角度とかですが、正直あまり関係ありません。

 

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クープナイフ

これは私が日ごろから使っているナイフですが、一様角度のあるものと下のようなまっすぐなものがあります。

別にどちらでも構わないのですが、下の安全カミソリと呼ばれるダイソーで売っているものの方が上のカミソリよりも鋭利でよく切れます。

ただ、刃が少ないのでわざと引っ張り出して使っています。

ちなみに、バゲット製造工場にいた時には、この100円のナイフで何千本ものクープを行っていましたが、見事にきれいに出来ていました。

角度に至っては、考えるだけ無駄だと思ってください。

そんなことよりも、とにかくしっかりとした生地を作り、そしてハリのある成形が出来るように頑張りましょう。