さて今回は、蓋をしないで型で焼く食パン、山形食パンの注意点について解説していきたいと思います。
四角く焼くプルマンブレッドも、それはそれで難しい部分が多いわけですが、山形になると尚更??難しくなると言えます。
なぜなら、そう高さがあるからですね。
これが横に広いパンならどうと言うこともないのですが、上に高いということは、やはり重力に逆らわなければならない訳ですから、自らの体重を支えるのが四角い食パンよりも大変になると言うことになりますね。
では一体、どんなことに注意しながら作れば良いのかを、やはり良くある疑問を通して見ていきたいと思います。
蓋をしない山形食パンの問題点とは・・・
蓋が必要なパンと必要でないパンには何か決まりはあるのか?
レシピに「蓋をして」と書いてあるから蓋をする、あるいは書いていないから蓋をしないというのがごくごく一般的な認識だと思うのですが、そこはやはり「このレシピはなぜ蓋が必要なのか?」「四角くしたくなければ蓋はしなくても良いのか?」「もし蓋をしなければどうなってしまうのか?」と言う疑問を持つ方が必ず出てきます。
当然のことですよね。
では、どの配合だと蓋が必要で、どの配合だと蓋はいらないのかという決まりのようなもの、あるいは向き不向きのようなものがあるのかどうかと言う質問はよくあります。
これに関しては、まずは結論から言えば特に決まりはありません。
どんな配合であれ、山形に焼きたければ蓋をしない、そして四角くしたければ蓋をすると言うことだけです。
な~んだそうだったんだ・・・ちゃんちゃん!
と言う訳にはいきませんよね。
決まりは特にないのですが、向き不向きは当然ある訳です。
それは大きく分けると、砂糖や油脂が多くてしっとりとした柔らかいパンを作りたいのであれば四角く、砂糖や油脂をあまり含まないハード系の香ばしいパンを作りたいのであれば山形で焼く方が理にかなっていると言うことになります。
それは何となくは解っていると思うのですが、実際焼いてみると様々な問題に遭遇することになることでしょう。
そのあたりをもう少し細かく見ていきましょう。
スチームが必要なパンといらないパンの違いは?
フランスパンにはスチームが必要だということは、パンを作ったことがある方なら恐らく誰でも知っていることでしょう。
しかしそれはなぜかと言うことを明確に答えることが出来るかと言えば、なかなかそうはいかないでしょう。
なぜなら、そもそも明確な理由なんてないからです。
どういうことかと言いますと、フランスパンであれその他のハード系パンであれ、スチームをかけないで焼く方もいるのです。
これは好んでそうしないわけではないかもしれませんが、そもそもスチームの機能がないから、またはパンに艶とかクープとかを必要としない人にとっては必要ないのです。
もちろんそうなりますと、一般的に見る理想的な色つやのパンにはなりませんし、ところどころ大爆発したかのようなおかしな形になったりするわけですが、それが自然なパンの姿だとお考えの方もいて、あえてスチームを必要としないのです。
★スチームの必要性については、こちらの記事を参考にしてください。
スチームの効果知ってますか? - ベーカリーアドバイザーの部屋
そのような、一風変わった解釈でパンを作る方は別として、一般的に砂糖や油脂を含まないハード系のパンをきれいに焼きたいとなると、どうしてもスチームを入れて焼かないときれいには焼けません。
なぜなら、パン生地がオーブンの中で膨らみながら徐々に焼けていくためには、表面だけが先に焼けてしまっては困るからです。
オーブンの熱がパン生地の中心に到達して、火を通していくまでの間は生地は膨らみ続けます。
しかしハード系のパンと言うのは生地の中に油分が無いか少ないので、すぐに表面が固まってしまい、するとまだ火が通っていない中の生地はその硬い表面を突き破って出てきてしまうのです。
そう、お餅が焼けるときのようになってしまうのです。
では、そのお餅を滑らかに柔らかくするにはどうするかと言いますと、汁の中に入れれば滑らかに伸びる柔らかい餅になりますよね。
スチームと言うのは、オーブンの中で瞬間的に汁の中に入れたような状態を作ることで、生地の表面が固まるのを防いでいるのです。
そのようにスチームを入れたオーブン庫内ならば、油分がない生地でも蒸気が表面を滑らかにしてくれる訳ですが、そもそも生地に油脂分が入り込んでいるパンの場合は、油脂がグルテン膜を包んでいますので、ある意味蒸気と同じように表面が固まるのを防ぎつつ、しかもスチームは概ね生地表面に対しての効果ですが、油脂分は生地全体に細かく入り込んでいますので、表面だけではなく生地内部が伸びていく際にもその伸びを熱から助けてくれる訳です。
つまり、滑らかで艶のある伸び方をした山形食パンが作りたければ、油脂の入っていないハード系の食パンにはスチームを用い、油脂が入っているパンには必要ないと言うことになる訳です。
ではスチームを必要としない油脂が入ったパンにスチームを使ったらどうなるのでしょう。答えは概ね3パターンあって、油脂大量+スチームのパンはめちゃくちゃ伸びて、油脂中量+スチームのパンはやや伸びすぎて、油脂少量+スチームのパンは意外と綺麗な山形になるのです。ですので、油脂少量(一般の食パン位の油脂量で対紛2~6%位まで)の配合でしたら、スチームをかけた方が意外と綺麗な、そして安定した山形になりますのでお勧めです。
山形食パンの山の数はいくつが良いのか?
これはぶっちゃけ型の大きさにもよる訳ですが、一様1.5斤位の型の場合で考えてみましょう。
色々なレシピを見ますと、形が一番安定しているのは1山のパンで、つまり型に生地を一つしか入れないパターンですね。
次が2山で生地二つです。
そんな感じで、多くなるほど山の高さが不安定になってくるのですが、それは一体なぜなのでしょうか?
はい、このように多くの生地が入るほどおしくらまんじゅう状態になってしまうからですね。
生地が一つでしたらおしくらまんじゅうにはなりませんから、そもそも全体が同じように膨らんでいけるのですが、これが4つ5つになると、我も我もと伸びたがってしまうようなのです。
もう少し細かく言いますと、例えば3個の生地を型に入れたとしましょう。
両端の二つは、片方が型の壁でもう片方が生地になります。
中央の生地は、両端共に生地になります。
生地はそれぞれ膨らんでいきますから、膨らむためのスペースを奪い合うことになり、つまりそれがおしくらまんじゅう状態なのです。
ということは、当然ながら中央の生地は他の両端の攻撃を同時に受けますので、一番はじかれやすくなりますよね。
しかしはじかれたからと言っても下にも横にも逃げ場はありませんので、結果上に逃れるしかなくなり、3山の中央が一番高い状態になりやすくなるわけです。
こんな感じでしょうか・・・
そしてさらに、それぞれの生地に元気があり過ぎて、つまり過発酵気味の生地で攻撃的なおしくらまんじゅうが展開されてしまうと、それはもう押し出されるだけではすまずに、こんなことになってしまうことすらあるのです。
捏ね上げ温度が高すぎた、なのに発酵中に温度の低い場所に置くなどの対処を行わなかった、さらに早めに分割をするはずがいつも通りにやってしまった、さらにさらに優しく扱おうと思っていたけど、むかつくことがあった為に力いっぱい成形してしまった・・・みたいな時にこのようになる場合があります。
画像はハード系ですが、ソフトな食パンでも元気が良すぎるとこうなりますので、パンは精神状態が安定しているときに作りましょう(笑)
この場合の元気が良すぎる状態と言うのは、温度しかり、成形しかりだったりしますが、小麦粉が強すぎる場合やイースト菌の配合量が多すぎる場合、あるいは生地が硬い場合にも起こります。
山の数が多いほどこの現象は起こりやすくなりますが、それとは真逆で一つの生地の場合はある程度強めに成形ができていないと、今度は元気がなさ過ぎて穴が開いてしまうことがあります。
パンと言うのは、どちらかに傾きすぎた場合でもダメなのですね。
また、蓋がないパンと言うのは生地の上だけが直焼き状態になりますので、よく上だけが真っ黒なパンを見かけます。
ですので、パン屋さんでは下火と上火の加減が一つの技術になる訳ですが、ご家庭ではそうはいかないと思いますので、一番良いのはあまり高さのない型を使うことですが、どうしても売られている山形食パンほどの大きさが欲しいということでチャレンジされる場合は、焼成の中盤あたりになったらパンの上に厚手の紙をかぶせると焦げなくなります。
これは上からの熱をシャットアウトするためですから、ティッシュのような燃えやすい紙ではなくて、広告のような厚みのある紙を使ってください。
山形の場合生地の量は増やした方が良いのか?
考え方として、四角であれ山形であれ、同じ生地量にしたとした場合は当然のことながら双方の生地内の密度は大きく違うものになりますよね。
四角いパンはキメが細かくなり、山形のパンはキメのやや粗いパンになります。
キメが細かいということは、しっとり、まったりとした口当たりになり、味も濃くなるでしょう。
他方キメが粗いということは、軽い空気感のある口当たりになり、味は薄めになるでしょう。
どちらが好みですか・・・と言う問題ですね。
どちらも同じようにしたいと言うのであれば、やはり山形の方は少し生地量を増やさなければなりませんが、その際の基準が一応存在しております。
それが型比容積というとらえかたで、四角い食パンの比容積は3.8~4.0
山形の比容積は3.5~3.7となっているのです。
どのようにしてこれを使うのかと言いますと、型の縦・横・高さをまずは測ります。
型は上に行くほど広がっているでしょうから、型の高さの中心部分でこれらを計測していきます。
※水を口きりいっぱいまで入れた時の重量が容積にはなるのですが、ほとんどの型は計測中に水が下からこぼれてきますので、計った方が早いです。また、この計測は概ねで良いので細かく考える必要はありません。一応型の中(内寸)を計るようにすると良いでしょう。
例えば、縦(長さ)が21センチ、横が9センチ、高さが10センチだとすると
21×9×10=1890になります。
これを四角なら 1890÷3.9=484g
山形なら 1890÷3.6=525g
とまあだいたいそれくらいの生地量にしておけば大丈夫と言う目安です。
食パンは比容積3.9、山形は3.6とだけ覚えておけば良いのです。
そしてそれぞれ2山ならその生地量を2で割り、3山なら3で割ると言うことですね。
型に対して生地量が多くなれば、蓋をしていればどんどん密度が濃くなって味も濃くなりますが、過ぎると火の通りも悪くなり、目詰まりしたパンになります。
蓋をしていなければ型からはみ出しすぎてしまい、ある一定以上方からはみ出してしまいますと、今度は生地の下が盛り上がってしまい最悪のパンになります。
他方型に対して生地量が少なくなれば、蓋をしていてもきちんと端まで生地が伸びきれずに上部が丸まったおかしなパンになる可能性があります。
蓋をしていなくても型から山形になるほど膨らまずに、ちょこんとだけ顔を出した、これまたおかしなパンになってしまう可能性があります。
いずれの場合も極端に平均値を無視することなく作ることは大切でしょう。
それと、例えばレーズンなどの混ぜ物がたくさん入るような場合は、やはり総合的に生地量は増やしておいた方が無難です。
レーズン入りの生地に関してはこちらも合わせてお読みください。
型の材質や保存に関する注意点は?
型の材質というのも色々あるにはありますが、ご家庭で使うなら下図のようなアルタイと、あるいはテフロン加工等加工してあるもののほぼ二択でしょう。
あえて高額なステンレスは必要ないと思います。
cotta こちらのサイトでは、色々な食パン型が揃っています。
パン屋さんでもほとんどがアルタイトですが、一番長持ちして火の通り的にも使いやすいのが特徴です。
テフロン等の加工してあるものは、初めのうちは良いのですが、フランパン同様使用しているうちに剥がれてきますので、お薦めはしません。
いくら剥がれが良いとか言っても、結局は洗わない訳にはいかないでしょうから、手間としてはたいして変わりません。
パン屋さんのようにほぼ毎日何度も何度も使うような場合は、油がなじんできて、より使いやすくなるのですが、ご家庭で一回焼いたらしばらくは使わない・・・と言うような場合には、型に付いた油が酸化してしまいますので、衛生の観点からもきれいに洗って油をとり、しっかり乾燥させてから収納すればずっと長く使うことが出来ます。
そのかわり、久しぶりに使い始める前には、いったん5分ほど空焼きをして、熱いうちにショートニングなどを付けたタオルで型の内側に油を塗りこむ感じで拭きあげて冷ましておくことが必要です。
あくまで塗り過ぎないように薄く付く程度で行ってください。
離型スプレーをお持ちでしたら、生地を入れる直前に噴霧してください。
離型スプレーがないようであれば、生地を入れる前に今一度先ほどのショートニングが付いたタオルで薄く油を塗ってください。
この際のショートニングは、マーガリンでもバターでもサラダ油でもかまいませんが、一番向いているのは離型用のショートニングというものになります。
お近くに製菓店があれば聞いてみて下さい。
通常のショートニングとの違いは、酸化しやすいかどうかだけですので、使ってすぐに洗うような場合は、どのような油でも構いません。
テフロン加工をお使いの場合は、説明するまでもないと思いますが、柔らかいスポンジで軽く洗うようにしてくださいね。
そういえば今どきはシリコンでも色々な型が登場していますが、食パンではやめておいた方が良いでしょうね。
せめてパウンドケーキ位の大きさまでにとどめておくことにしましょう。
また、面倒ではありますがご家庭で焼く食パンは一回に1本ですよね。
でしたら、型を汚さずに焼く方法があります。
それは、クッキングシートとかベーキングシートなどを型のサイズに合わせて切り、内側にセットしてから生地を入れて焼く方法です。
こうすれば、油で型を汚す必要もなく、油を使う必要もなく、生地が型にくっつくこともなく、キレイに焼けるでしょう。
シートの材質によって、剥がれがとても良いものと、今一なものがあるかもしれませんが、全く剥がれないようなものはないはずですから、一度試してみて下さい。
蓋をする場合もしない場合もお試しいただけます。
ということで、色々と見てきましたが疑問は解決に向かいそうでしょうか?
ここにない疑問にお困りでしたら、お気軽に問い合わせフォームからどうぞ。
また、食パンを型で四角く焼くよりも、もっと簡単にこんなにかわいいパンが作れる型もありますから、色々とお試しください。