みんな大好き、コーンとベーコンのパン。
この画像を見て、美味しそうだと感じますか?
それとも、なんか膨らみ悪そうと感じますか?
それとも歯切れがよく食べやすそうだと感じますか?
見る人の好みも、そして作る人の狙いもきっと様々でしょうね。
ただし問題なのは、狙い通り作れたのか、思い通りの完成度なのかということですよね。
思っていたのとは違う・・・ということであれば、やはり気持ちのいいものではありません。
手作りパンというのは、生地の取り扱い方いかんで、完成度がかなり違ってきます。
ではどのように扱うことが望ましいのか、どこがいけなかったのか、そんなことを探るきっかけとなる質問を通じて、共に考えていきましょう。
ということで、こんな質問をいただきました。
Q1 焼成で、生地のコシが弱いと温度が低めで、強いと温度が高め というのはどういう訳でしょうか?
Q2『ダレる』の状態について。 扱いにくい生地でも、冷やすと成形しやすくなったりします。 そのことの理由が酵母の内部摩擦に関係があることが分かりました。そのときの生地の伸びやすくなった状態と、捏ね上げ温度が低いときに『生地がダレる』の状態は別物なのでしょうが、それはどう違うのでしょうか?
感覚的なものとは思いますが、少し、『ダレる』についてご説明いただけますか?
Q3ベタつく現象について ミキシング中にベタつくとしたら、それは水分が多いということで、水和が不十分か、水と粉の割合が合っていないために起こると思います。発酵種などで、長時間発酵している場合は酵母によって水、またはアルコールが生み出されているから、と思います。
でも、低温発酵の時に生地がベタつくのはなぜでしょうか?結露なのか?とも思ったりしますが・・・?
たくさんの質問ありがとうございます。
意外にマニアックな質問だとも思いますが、ちゃんと解らないとすっきりしない・・・ 解ります・・・(~_~;)
では順次考えて行きましょう。
Q1 生地のコシと焼成温度の関係について
これは生地に元気がない時には焼成温度を低めにして、生地が元気な時は温度を高めに焼くのはなぜか??ということですよね。
言いかえると、自らが伸びようとする力のある生地なら焼成温度が高くても膨らんでいくが、自らに力がない生地は焼成温度が高いと伸びきれない・・・・なので、生地の力に合わせて焼成温度を調整する事で、同じような製品に仕上げる事が出来る、 という考え方が当てはまるでしょう。
ただし実際はもう少し複雑で、オーブンの中で良く伸びる力のある生地は、温度を高めに設定しないと焼き色はぼけるし水分は飛び過ぎてしまいます。
他方力のない生地はすぐに焼き色がついてしまうので、生焼けが心配ですから、解っているなら焼成温度はやや下げるしか方法がありません。
焼成テクニックの一つだと言えますが、生地の元気が良いと、オーブンの中でどんどん膨らんでいきます。
どんどんどんどん膨らんで、なかなか止まってくれません。
すると、いつまでたっても焼き色は付かないし、その分内層の気泡は荒くなり、火も通りすぎてパサつきの原因になるかもしれません。
ですので、原則としては出来るだけ高温で、過度にオーブンの中で伸びすぎないように焼くことが一つのコツとなるわけですが、反対に生地に元気がない場合は、伸びる力も弱いので、伸びきれないうちに表面が焼けてしまい、それ以上は伸びることが出来ない為、内層の詰まった小さなパンになる可能性があり、それを防ぐために、やや火力を抑えた方が良いという考え方になるのです。
Q2 生地がダレるというのは・・・・
生地がダレた感じになるのは、一般的には捏ね上げ温度がかなり低い時に起こるものとお考えください。
通常の捏ね上げ温度で完成したパン生地は、その後分割した後冷蔵庫などに入れてから成形する場合がありますね。
特に伸ばす成形の物や薄くする成形の場合などは、一度冷蔵庫で冷やすのは実に効果的な手法です。
では、どうせ5℃前後の温度で冷やすのなら、捏ね上げ温度なんて関係ないのではないか・・・ そう考えてしまうのも無理はありませんね。
しかし、そうではないのです。
通常の捏ね上げ温度にて第一発酵を取ると言う事が最も重要で、そこでイースト菌の活動はしっかりと始まっていきます。
その後にいくら冷やしても、イースト菌の活動は緩やかになる事はあっても止まる事はありません。
しかし、始めから捏ね上げ温度が低い場合は、第一発酵でイーストの活動が活発には行われませんから、その後に冷蔵する事で更に生地が冷え、最悪の状態になります。
つまりダレてしまう訳ですね。
生地がダレてしまうのは、イースト菌の活動が不十分で、内部摩擦があまり無い状態を指します。
さらに、柔らかい生地なら尚更ですね。
イースト菌の活動が活発に行われた生地を冷蔵する事で、一時的に発酵が緩やかになります。
伸ばしたりする成形では、生地にかなりの負担をかけますね。
なのでここで生地を冷蔵して内部摩擦を止めておく事で、生地への負担が軽減され、風船の割れを防ぐ事が出来るのです。
もちろん成形に自信があるなら冷蔵する必要はありませんよ。
その他にも、ミキシングの後半から水分を足したり、砂糖を後から入れたり、日にちが経過した発酵種を添加したりしても生地はダレますし、扱いが悪くて生地の風船を潰してしまっても、もちろんダレてしまうこともあります。
しかし、ここで言うダレるという現象は、生地に元気のない状態のことを差しますし、その原因は第一発酵不十分の要因が最も強く、イースト菌が活発に働いていない状態を差します。
イーストの活動が適正であり、さらに取り扱いが良かった生地と言うのは、このように張りがあって艶もあり、まさにあなたのお肌のような状態だということですね。
Q3 低温発酵のベタつきについて
これはあらゆる食品共通の理屈になります。
生地の温度が28℃前後。 冷蔵庫の温度が5℃前後。
つまりはこの温度差により、さらに入れ物の材質によって、どうしても水滴が表面に発生してしまいベタついてしまうのです。
生地の保存には番重やタッパーをお使いだと思いますが、ビニール製品は温度に鈍感です。
冷蔵されてしばらくは、生地も冷えませんので発酵が始まってしまいます。
すると摩擦熱で生地温度はむしろ一時的には上昇してしまいます。
しかし、やがては冷えていきますので、その間に水分が放出され、逃げ場がない為に内部にたまった水分が水滴となる訳ですね。
例えば良く冷えていないカレーをタッパーに入れて蓋をして、冷蔵庫へ入れます。
すると、数時間のうちには蓋の内側に水滴がわんさかとつくのが解ると思います。
ということは、ご指摘の通り結露であるとも言えますよね。
しかしそれとは別に、生地全体がベターッとしてくる時があります。
それは冷蔵庫へ3日以上入れて置いたり、ご指摘のようにそもそも水和が悪かったりした生地の場合特にそうですね。
この場合のベタつきというのは、結露も関係があるものの、本当の正体は ”遊離水” という現象なのです。
魚を冷蔵しておいたら水が出た・・・そんな経験ありますよね。
冷蔵温度帯というのは、もっとも食品の中の水分が暴れまわる温度帯なので、様々な条件とタイミングで水っぽくなってしまうものなのです。
それを防ぐためには、実は色々な理論や製法があるのですが、細かいことはまた別の機会にご説明するとして、ここで言えることは、
●冷蔵する生地は硬めにする。
●冷蔵する生地はしっかり捏ねる。
●冷蔵する生地は強い小麦粉を使う。
この三つに注意していただくことで、水っぽくなるのを防ぐことが出来るでしょう。
ということでまとめますと、
生地はダレていれば確かに伸びやすいですよね。 そして冷やしても伸びやすくなる。 しかし、同じ伸びやすさでも、その後のパン生地の状態は全く別物なのですね。
それにしても、このような質問は実に貴重だと思います。 私自身今現在に至るまでに、数百人のスタッフと共にパンを作ってきましたが、誰ひとりこのような質問をするスタッフはいませんでした・・・
悲しいかな(ー_ー)!!
しかし私は今現在も、目の前で生地切れを起こしても平気で作業しているスタッフにいらつきながら、なぜ解らいのだろう・・・・と悲しい気持ちになってしまいます。
今回のような事が気になる・・・・それがまさに感性ではないでしょうか?