前回、発酵種と中種の違いについて説明しました。
その中で、中種法で作ったパンは、かなりフワフワになる事は事実で、時間が許すなら是非取り組んでみてほしい製法である事は確かなのですが、あくまで常温管理ですので、完成まで気が抜けません。
しかも、生地は細かい気泡が多くなり、その分グルテンが繊細な網の目になっているので大変扱いにくくなります。
せっかくソフトな生地であっても、分割や成形段階で生地を傷めてしまっては何にもなりません。
きちっとしたレシピにのっとり、中種の発酵状況を見極め、生地を傷めないだけの技術があって初めて取り組める製法だとも言えます。
ですので、なまじここでレシピなどを紹介しても、完成品の善し悪しは技量によって大きく異なる事になると思われますので、あえてここでの中種法の紹介は控えたいと思います。
もし興味がおありでしたら、個別にアドバイスさせていただきますので、その時はメールフォームからレシピなどを送って下さい。
と言う事で、今回は家庭で発酵種を使う際の利点や注意点などを、さらに細かく説明していきたいと思います。
発酵種の力を見ていきましょう。
まずレシピはフランスパンの配合で構わないのですが、私の場合は小麦粉は最強力粉をお勧めしています。
何故かと言うと、発酵種の使い道にはいくつかの方法があるからです。
前回、発酵種はダシの様な物であると書きました。
それは、発酵種の熟成臭がパンの風味向上に一役買うからですね。
この風味向上の為の発酵種は、作ってから二日目から四日目位の方がパンの香りが良くなります。
発酵種は、作ってから一晩程度だと、まだ発酵力は強いのですが熟成と言う点では不十分なのです。
ですから、香り付けの為に添加するのであれば、二日以上置いてから使用した方がいいのです。
このような使い方を目的とした発酵種の事を、老麺生地と呼ぶ事があります。
いかにも香りが付きそうな名前ですね(@_@;)
では、作ってから一晩の新しい発酵種にはどのような効果があるのでしょうか?
それは、発酵力もプラスされると言う点なのです。
作って一晩の発酵種を、仮に食パンに40%添加したとします。
すると、イースト菌をいつもの半分にしても発酵が進んでいきます。
さらに、発酵に時間はかかりますが、イースト菌は入れなくても発酵してきます。
それ位一晩しか冷蔵していない発酵種には発酵力があるのです。
何が言いたいかと言いますと、イースト菌で作ったパンは、必ずイースト臭が付きます。
勿論それも美味しさの一部ではありますが、違った風味のパンにしてみたい時がありませんか?
そんな時に、イースト菌を使わないで、発酵種によってじっくり発酵させる事によって、いつもとは全く違った風味のパンになるのです。
もっと言うなら、イースト菌の発酵力そのものは、冷蔵庫で一晩寝かせればほとんどなくなってしまいます。
では、それ以降の発酵力は何なのかと言いますと、それは天然酵母によくある乳酸菌や酢酸菌などの熟成から生まれた菌が、たくさん生地中に生まれ、その力によって発酵していくのです。
ですから、この時点ではほとんどイースト菌の香りはありません。
あるのは熟成臭というかアルコール臭というか、それらが入り混じった独特の香りです。
そして、この発酵種のみで作ったパンは、スタートはイースト菌なのですが、使用する際にはもうイースト菌と言うよりも、自然の菌、つまり天然酵母となっている訳です。
本来の天然酵母は、もっと時間をかけて作るものですが、発酵力自体はけして強くはありませんね。
ところがこの発酵種による即席天然酵母は、発酵力も大変強いので、ソフトなパンが焼き上がるのです。
この場合の天然酵母を、小麦種と呼んだりします。
スターターはイースト菌で、小麦が媒体の天然酵母という定義になります。
・・・・というか、定義自体自分自身で作るものであって、どこかに許可を得ると言うようなものではないのですが・・・・
国産小麦でパンを作ると、力が今一で、どうしても重い感じのパンになってしまいがちですね。 (今どきは力のある国内産小麦も多いですが・・・)
そんな時に、最強力粉で作った力が強く発酵力もある、そして一晩じっくり低温熟成した生地を添加すれば、ボリュームのあるパンになるのです。
米粉などを使ったパンを作る時もそうですね。
要するに、力の無いパンを作る時にこの発酵種を添加する事で、ソフト感と旨味を両方プラスする事が出来ると言う事なのです。
※ただし、国産小麦以外は駄目とか、小麦アレルギーによる米粉100%パンを作る際は話は別ですよ。
以上のように、力の強い発酵種を作っておけば、初日には天然酵母パン、二日目以降は食パンの香り付けと、使い分ける事が出来るのです。
で・す・が、いきなり発酵種だけでパンを作ろうと思っても、勿論通常の時間では発酵してきませんよ。
ミキシングを控えめにして、パンチをしながらのパン作りになります。
ですから、イースト菌も併用しながら色々なパンに取り組んでみて、最終的に時間がある時にでも是非お試しいただけたらと思います。
その時のイースト量は、最初は普段通り入れてみて、発酵が早すぎるようなら順次減らしていけばいいと思います。
いずれの場合も、発酵種の添加量は40%を上限として下さい。
発酵種は生地をつなぐ役目もあるのですが、あまり多く配合してしまうと、生地の腰が強すぎて生地切れを起こしてしまうからです。
さらに、発酵種は塩味だけです。
これを甘い生地に大量に添加すると言う事は、甘さが薄まると言う事になる訳です。
ですから、添加する量によって、その他の配合も変更しなければならなくなると言う事を忘れないでくださいね。
仮に発酵種を100%添加したいと考えたら、砂糖や卵や油脂など、あらゆる配合を倍に近い量まで増やさなければならないと言う事ですよ。
また、発酵種があまったら冷凍保存できるでしょうか? というご質問がよくあるのですが、出来ない事はありませんが、ほとんどの菌は死滅してしまいますので、発酵種の意味がなくなってしまいます。
私がお勧めしているのは、とにかく発酵種があるだけパンを作ってしまう。
そして、食べきれない時は、焼いたパン自体を冷凍する。
またはお裾分けする。
(*^_^*) 残念ながら一度発酵が始まってしまった菌は、冷凍ではほとんどが死滅してしまうのです。
ジャンジャン作ってお裾分けですよ!!! 人類皆兄弟ではありませんか・・・・なんのこっちゃ(~_~;)
発酵種はすべてのパンをおいしくするか・・・
ここで言う発酵種は、
●発酵力もあり、
●そして熟成臭もあり、
●そしてグルテン補強の効果
もある訳です。
ですので、これらの力が必要なパンに使っていただきたいのです。
そう考えてみますと、特にフランスパンには不向きであるように感じますよね。
フランスパンから得たいのは、熟成臭というよりも小麦臭ですし、グルテン補強でコシが強くなってしまっては成形しずらいですし、しかもフカフカのフランスパンではガッカリですね。
ですので、いわゆるバゲットとかバタールのようなパンには正直不向だと言えるでしょう。
また、サクサクが要求されるクロワッサンやデニッシュの場合も要注意です。
生地がプリプリとしてしまい、折り込みづらくなる可能性があるからです。
しかしながら、少量なら風味をプラスするという意味でお使いいただけると思いますし、ここで言う発酵種とは違って、ある程度種継ぎをして熟成させるルバン液種などの場合は、特にフランスパンなどの小麦臭をさらにアップさせることが出来るので、実際に多く使われているのです。
今回ご紹介している発酵種に限って言えば、食パンとか菓子パンなどの、しっとりとさせたいパン、そしてふんわりとさせたいパンに向いているのだと覚えておいていただければ良いと思います。
中種などだとどうしても難しい部分があるのですが、発酵種は添加するだけですし、普段のパン作りを大いに助けてくれます。
ご家庭では是非常備しておいてほしいと思います。