バゲットのクープがきれいに割れないというご質問をよく受けます。
それもプロのパン屋さんからの方が多い・・・
ご家庭でのフランスパン作りのシーンにおいても、とても売っているようなきれいなパンにはならないという方や、別に美味しければ関係ないという方もいるようで、それでも質問内容の1位であることだけは確かなフランスパンのクープ・・・
結論から申し上げましょう。
ご家庭でのパン作りではクープが開いても開かなくても、それは大した問題ではありません。
味・風味・食感、そちらの方を気にしていただき、総合して美味しければそれでよいのです。
でも、こんな意見もあおりでしょう・・・
冗談じゃない、見た目も味の一つでしょ・・・
第一、かっこ悪いパンを見て食べる人はどう思っているだろう・・・
こいつダセーな~なんて思われたくないし、やっぱり「すごーい!」とか「パン屋さんのパンよりこっちの方が何かカッコいいね!!」と、主人や子供にもそう言ってほしいし・・・
そうですよね~ その気持ち実によくわかります。
と言うよりも、私達作る側の人間はどうしたって完成品に美を求めますよね。
それはお店の陳列にしたってそうですし、料理の盛り付けにしたってそうでしょう。
より美味しそうに見えるようにと、皆さん工夫しているわけです。
しかしです、例えばパン屋さんのバゲットがかっこよく陳列されていたとしても、そのかごの中にあるバゲットのクープの開き具合を見て選ぶというお客様は、実はあまりいません。
いたとしてもごくごく一部の方です。
ほとんどの方が、味とか価格とか料理のメニューと合わせてとかの理由で買い求めていて、そのバゲットのクープがきれいかどうかはあまり見ていないのです。
ご意見が良くわかるというのは私の個人的な意見で、私もパンには非常に美しさを追求してきた、いや、追求し過ぎていた感すらあります。
そしてある時気が付いたことがあるのです。
それは、キレイなバゲットのお店ほどたいして売れていないという現実でした。
もっと言うと、「何だこりゃ??」みたいなお店の方が売れていたりするというものでした。
これっていったいどういうことなんだろうと随分悩みました。
そして気が付いたのです。
クープを気にするパン屋さんというのは、お客様の購買心理をつかめていない人が多いということなのです。
つまり、「なぜこれが売れないんだろう」「こんなに美しいのに・・・」という作り手の満足と、お客様が求めているものが合っていないんだということに気が付けていないということなのです。
売れているお店のバゲットというのは、見た目はダサイものが多い印象はありますが、色々な大きさを揃えていたり、カット販売をしていたり、スライス販売をしていたり、そもそも種類が多くて選ぶ楽しさがある。
そして値段は手ごろだったり、バゲットの生地を使った様々なパンの種類があり、フランスパンの美味しさをきちんとアピール出来ている。
それに比べてクープのこだわり店では、1日5本しか売れないなどと言いながらも、何も変えようとはしない・・・
そうなのです、それではいけなかったのです。
やはりモノづくりと言うものは、相手が何を求めているか、相手が満足することとは何なのかを主に考えられないといけないのだと痛感したのでした。
そこで私が申し上げたいのは、ご家庭で作るフランスパンは味や個性が一番で、美しさは二の次で良いのではないかと言うことなのです。
これはもちろんパン屋さんにも言えることなのですが、例えば美味しさを求めて超多加水のバゲットを作ったら、クープがきれいに出なくてやめてしまったとか、ライ麦粉や全粒粉をたくさん入れた個性的なパンを作ろうと思ったら、やはりクープがうまく開かずに商品化できなかった・・・なんていうことはナンセンスだと思うのです。
クープが開こうが一見カッコ悪かろうが、色々な種類に挑戦すべきですし、買う立場、食べる立場からすれば色々なものが食べられたほうが良いはずなのです。
それを、カッコ悪いからと止められてしまったとしたら、それこそ一番悲しいことではないでしょうか。
そもそも、ご家庭の小さなオーブンで、火力やスチームの質にも限界があるにも関わらずに、なぜ細長いバゲットを作ろうとしてしまうのか、どうしてクッペでは満足できないのか、はたまた成形をしないルスティックにすれば、いかなる配合であっても、どんなにべた付く生地になっても、クープの心配などせずにどんどん作れるのに・・・そう思えてならないのです。
ちょっとこちらの画像を見て下さい。
kojiko party バタールのクープを考えるさんのサイトですが、非常に参考になります。
画像を見ると、ある程度生地は柔らかいことが見て取れます。
ナイフの入れ方が深いですし、ナイフに生地がくっついてしまっています。
また、下の画像ではクープの間隔がそれぞれ狭く、一本一本が長すぎます。
さらに、生地はナイフにくっついてめくれてしまっていますし、そもそも生地にハリがないように見えます。
そして焼かれたパンの内層がこんな感じなのですが、これを見てどう感じますか??
ありゃりゃ、やっちまったなこりゃ・・・と感じますか?
私には、非常に美味しそうにしか見えません。
なぜかと言いますと、丁度画像の中心あたりを見ていただくとわかると思うのですが、内層がキラキラ艶々していますよね。
それに、大き過ぎる穴が良いとは言いませんが、表皮がとても薄く、全体的にフワフワした感じが伝わってきて、なぜか香りまで感じる気がしてきます。
つまり、ナイフにくっついてしまうような柔らかい生地でも、クープがきれいに入れられなくても、このパンなら私は食べたいと思います。
皆様はいかがですか??
クープのみをきれいに入れようと思ったら、生地の感じはこんな感じになっていないといけません。
張りがあり、ナイフの深さもバランスもとても良いと言えますが、だとしたらやはり配合や水の量や成形技術に限界が生まれてしまい、完成品が個性のないものばかりになってしまうのではないでしょうか。
ですのでどうか、少なくともご家庭においてはクープのうまい下手とか、そもそもクープが入りやすい生地とか成形にとらわれるのではなく、自由なレシピで、様々なクープ不可能と思えるようなパンを作りだしていただきたいと願います。
とは言え、少しでもクープが開くようになるにはどうしたらいいのかを知りたいとは思いますので、簡単にまとめてみました。
クープがきれいに割れるためには必要なのは・・・
一番初めに紹介した画像を今一度ご覧ください。
クープが開きまくっていて、逆に肌が露出しすぎています。
このような現象は、全般的にスチームが足りていない時に起こります。
成形された生地には非常にパワーがあり、プリプリした元気の良い生地の場合には、オーブンの中で伸びようとする力がとても強いのに対して、スチームである程度制御してあげないと伸び続けてしまうのです。
しかしこの画像の場合のように、スチームの量が足りていないと、いつまでたっても伸びが止まらずに、このような状態になってしまうのです。
これがいわゆる元気な生地&足りていないスチームと言う関係になります。
またこれとは逆に、出来上がったパンがツヤツヤでクープが全く開いていないということもあると思います。
その場合は、単純にスチームの量が多いのです。
これがいわゆる元気が今一な生地&多すぎるスチームと言う関係になります。
まだあります。
パンがツヤツヤとしていて、全体的にはクープはほとんど割れていないのに、一部の場所からまるで餅を焼いたときのようにぷくーっと生地が飛び出してしまっている状態。
これがいわゆる元気な生地&多すぎるスチームと言う関係になります。
たいていの場合このどれかに関わっているのは確かなのですが、例えば5本のクープのうち2本だけが開くとか、1本しか開かないとか、4本開いて1本だけひらかないとか、様々なパターンの質問を頂きますが、結論としてはすべてバランスの問題なのです。
要するにこういうことです。
成形の際のガスの抜き方がアンバランス。
成形の際の生地のコシやハリがアンバランス。
オーブン内の熱伝導がアンバランス。
オーブン内のスチームの当たり方がアンバランス。
これらのアンバランスをすべてクリヤーするというのは、ご家庭でのパン作りではかなりハードルが高いと思います。
しかも、オーブンに関して言えばどうしようもありませんよね。
それでも、どうしてもきれいなクープを出してみたい・・・とお考えでしたら、そのコツはこれです。
- 生地は水を少なめにして硬くする。
- しっかり捏ねる。
- 捏ね上げ温度は2℃高くする。
- 発酵中に必ずパンチは入れる。
- ベンチタイムは短くする。
- 焼成前に天板は十分熱くしておく。
- クープの前に小麦粉を茶こしでふるう。
- 蒸気は少なめにする。
これで一度自分のオーブンでしっかりとクープが開くことを確認出来たら、色々とアレンジがきくようになると思います。
それでも、初めのうちは1本のクープがきれいに割れるように、こんな感じのパンにしておく方が良いとは思いますよ。
バゲットを愛するパン愛好家というのは実に多いと思いますし、それはむしろパン職人よりも主婦の方の方がその魅力を良く知っておられる。
だからこそ、ご自分でも、ご自分のご家庭において最高に美しいと感じることが出来るバゲットを作りたいのでしょう。
しかしどうぞ、その為に作る楽しさを犠牲にはしないでいただきたいと思います。
技術よりも発想・・・これがホームベーキングのだいご味だと私は考えます。
パン屋には無いような独創的なパンを、これからもどんどん作ってほしいと思います。
応援しております。